2021年11月8日月曜日

【駆け出しのころ】大成建設代表取締役副社長執行役員営業総本部長・矢口則彦氏

 ◇成長続け面白さ味わう◇

 人付き合いなどコミュニケーションには自信があったので、建築の世界も設計より施工の方が向いていると考えました。入社後は大阪支店(現関西支店)に配属され、最初の現場は神戸ポートアイランドでの冷蔵倉庫新築工事。本体施設に隣接するRC造の事務所を任され、規模は小さいものの、初めての経験で苦労の連続でした。

 数週間を要して完成させた躯体図を徹夜明けに印刷機へ入れたら、原紙が巻き込まれてボロボロに。その日に手渡す予定だった躯体工事の職長に謝り、必死になって数日で書き直したのを覚えています。

 関西には丸5年いましたが、担当した現場のほとんどが中小規模。同期らが東京でビッグプロジェクトに携わり、最新技術に関われる環境をうらやましく感じていました。せめて机上で知識を増やそうと、施工系の雑誌などを読みあさりながら、今後担当するであろう大規模現場に備えました。

 最初の5年は早く成長したいと、何でもがむしゃらに取り組みました。今思えば、いきなり大現場を担当しても全体の一部のことしか分からず、小さい現場で最初から最後まで一通り学び、技術者の基礎を築けたことは良かったです。

 6年目に東京へ移り、念願の大規模開発事業でホテルの建築工事を担当。その後もビッグプロジェクトに数多く携わる機会を得ました。新技術など過去に例のない施工に挑戦し、これまでにないものを造り上げる面白みは、他の仕事ではなかなか味わえません。

 大小を問わず、携わった建築プロジェクト全てに思い入れがあり、勉強にならない現場はありませんでした。仕事の捉え方や現場で何を学ぶかは結局、自分次第です。腐らず将来に備えチャンスをものにしていくことで、さらに活躍の場が広がっていきます。

 一品生産でいろいろなやり方を創意工夫し、ものづくりの面白さや達成感を味わえる建設の魅力を社会に認知させることは産業全体の重要課題。完成までのプロセスは厳しく苦労も多い大変な仕事ですが、やればやるほど楽しく、面白くなることを特に若い人たちに伝えたいです。

 仕事一筋の時期も必要ですが、仕事以外でのライフワークの充実も人としての幅を広げ、魅力を高めるのに不可欠。建築だけでなく、学生時代から続けるバンドなどの音楽活動でも誰にも負けないぞと真剣に取り組んできました。趣味の世界も含め、建設業で働く人たちがどれだけ魅力あふれる生き方ができるかにより、周りの見方も変わってくると思います。

 デジタル化が進展する中、次代を担う若手にはものづくりの本質を理解し、技術者として体得すべき基礎の部分を大切にしてほしいです。あくまでデジタルはツールの一つであり、自身の成長なくしてものづくりを楽しむことはできません。

入社2年目ころ、大阪支店時代の現場事務所で

 (やぐち・のりひこ)1978年早稲田大学理工学部建築学科卒、大成建設入社。中国支店長、建築総本部長、営業総本部長(現任)などを経て、2021年から現職。東京都出身、67歳。

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