2021年11月8日月曜日

【回転窓】巨大なスケールと精巧なディテール

  本年度の文化功労者の一人に建築家で日本芸術院会員の谷口吉生氏が選ばれた。建築界では15人目。建築家で父親の吉郎氏と親子2代での栄誉となった▼「土門拳記念館」「東京国立博物館法隆寺宝物館」「ニューヨーク近代美術館新館」など吉生氏の代表作は枚挙にいとまがない。どの作品も流行や自己主張に左右されず、確かな技術と表現により建物が周囲の環境の中に最適な存在感で立ち上がっている▼作品解説の媒体以外、メディアに登場しないことでも知られる。そんな吉生氏の貴重な講演会を10年ほど前に取材する機会を得た▼「人を寄せ付け美しく感じる空間をつくろうと、私自身が一つ一つに直接関与する」。建築に対する真摯(しんし)な姿勢と情熱がうかがえる。博物館や美術館など巨大なスケールを手掛けるが、手すり一つでも美しい精巧なディテールの秘訣(ひけつ)がかいま見られた▼代表作の一つ「東京都立葛西臨海水族園」が保存、利活用の方向で検討が進む。東京都が新たに建設する施設に水族園機能が移転しても、1989年の開園以降、多くの市民に親しまれてきた谷口建築の魅力は変わらない。

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