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第3PTBの建設コストは通常の半分。 「どれだけわくわくできるローコスト建築を作れるか」と、設計者は知恵を絞った |
◇ローコストで効率性と機能性追求◇
成田国際空港会社が成田空港(千葉県成田市)内で整備を進め、今年4月8日に開業した格安航空会社(LCC)専用の「第3旅客ターミナルビル」。建設費を抑えるため、施設の簡素化を図りつつ、効率性や機能性を重視したデザインを取り入れた。15年度のグッドデザイン賞(日本デザイン振興会主催)で、国内空港初の金賞を受賞。審査員からは「分かりやすさ、歩きやすさ、使いやすさ、静かさ、楽しさなど、従来の空港の概念を覆すほどに新しい数々の価値が、誰にでも分かりやすい形で提示されている」と高い評価を得た。
LCC専用の旅客ターミナルビル(PTB)の整備費は供用開始後の施設使用料で賄うため、LCC側からは整備コスト抑制への要望が強い。こうしたニーズを踏まえ、成田空港会社は最もコストを抑えられる施設構造をはじめ、内装・設備の仕様の簡素化・合理化などを徹底。供用後の運営コストも縮減できる施設づくりに取り組んだ。
第3PTBの整備に当たり、同社は関係者を集めて設計段階から施設の構造・規模などについて綿密な検討を行った。「最も合理的なスパンで柱を配置したほか、吹き抜け空間をつくらず、空調などの省エネ性能にも配慮した」(工事担当者)。
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簡素で使いやすさを重視したサテライト棟の出発ゲートラウンジ |
シンプルな構造を追求し、店舗などの関連施設も華美な内装・デザインを避けた。LCC国内線の搭乗ゲートとロビーになるサテライト棟は、屋根部分の軽量化によって無柱のフロア面積を拡大した。
運営コスト縮減の一環で、二重折板の間に断熱材を入れた屋根材を使用。ガラス窓など開口部分の少ない外壁デザインも採用して空 調の負荷低減を図った。
成田空港の限られたエリアの中で第2PTB北側地区の敷地約2・6ヘクタールに、第3PTBの本館とサテライト棟、ブリッジなどが整備された。施設本体の建設費は約150億円。当初計画よりも大幅に削減し、通常のPTBのほぼ半分程度にコストを抑えられたという。
天井高を5メートル程度に抑えた本館2階の出発エリアでは、仕上げの天井板を張らず、開放感あふれる空間を創出。案内サインや装飾、関連施設・サービスなどを簡素化・簡略化し、利用者が気軽に使いやすい施設とした。
出発ロビーでは、国際線と国内線のチェックインカウンターを同一エリアに配置。ゲートエリアに向かう途中に国内の空港では最大規模のフードコート(約450席)を設け、休憩スペースとして24時間利用できるようにした。
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陸上トラックのような床案内サイン |
施設内と周辺部の動線にはゴムチップの陸上トラックを模して青と赤茶で色分けされた床案内サインを配置するなど、行き先の分かりやすさへの配慮とともに、歩行者の足の負担を軽くし、歩くことを楽しめる空間づくりにこだわった。
第3PTBの建築・デザインのキーワードは「more than 2into1」。二つ以上の機能を一つに集約し、経済合理性の追求を心掛けた。
ローコスト空港のデザインを具現化する「Terminal3プロジェクト」には、プロデューサー・ディレクター・デザイナーとして日建設計、良品計画、PARTY(東京都渋谷区)が参加。建築、サイン、家具といったすべてのデザイン要素を分断せず、3社が互いの制作過程で密接に連携しながらデザインを工夫してきた。
日建設計の担当者は「ただローコストを追求するのではなく、どれだけわくわくできるローコスト建築をつくれるか。ローコストゆえのネガティブな要素を、楽しいというポジティブな要素に変換し、それによって旅客の物語の舞台になれるような空間をつくろうと思った」と話している。
第3PTBの供用開始から7カ月が過ぎ、成田空港会社には利用者から「シンプルでスタイリッシュ」「案内が分かりやすい」といった声が寄せられている。
引き続き施設を利用する旅客やLCCなど関係者の意見に耳を傾けながら、より魅力的な空港づくりに取り組む。
《整備概要》
【施設構成】本館(3階建て延べ約5万m2)、国内線用ゲートエリアのサテライト棟(2階建て延べ約7000m2)、両施設をつなぐブリッジ(橋長約100m、延べ約1300m2)など
【基本設計】日建設計・梓設計JV
【実施設計】日建設計
【施工】大成建設(本体工事)