期待を胸に入社した新入社員に研修担当者は何を語りかけるのか… |
2020年東京五輪に向け、好況に沸く建設業界。生産体制の維持や、いびつな年齢構成を是正するため、新卒採用の拡大に乗りだす企業も少なくない。剛田武さん(仮名)は、就職氷河期といわれた10年前に準大手ゼネコンに事務職として入社。本社の人事部で採用や研修を担当するようになって今年で5年目を迎える。
剛田さんの会社は、社員の8割近くが大学や専門学校で土木や建築などを専攻した技術職が占める。採用活動では必然的に理系の学生と接する機会が多くなる。「最近は求人の増加で売り手市場。学生の大手志向は変わらない。滑り止めで当社を受け、内定を出しても入社してくれない学生もいる」と嘆く。
若い世代はインターネットを駆使した情報収集にたけている。ホームページなどで会社のことをよく調べてくる学生も多い。ただ、そうした知識よりも人物重視の選考を心掛けている。建設業ほどコミュニケーション能力が問われる仕事はないと考えるからだ。「現場では発注者や職人、近隣住民と相手にする人の年齢や職業はさまざま。ものづくりだけしていたのでは務まらない」。
人事部に配属される前は、地方の支店や営業所で現場事務を担当していた。入社後最初の配属先は大型商業施設の現場で、事務員は自分一人。右も左も分からないなりに、資金の管理や現場に入る協力会社の安全書類の作成などに奮闘した。資材を買ってきて現場に運搬することもあった。日付が変わるころに寮に帰る忙しいながらも充実した日々を送った。
所長は社内でも名の通った厳しい人だった。同じミスを繰り返し、蹴られたことも一度や二度ではない。「お前に期待しているからこそ、きつく当たった」。竣工間際に現場事務所で所長と二人きりになった時に言われた言葉が今でも忘れられない。
この現場では着工から竣工まで見届けた。「完成した時よりも、商業施設がオープンし、お客さんが来ているのを見た時に感動した。建設業は人の生活を変えられる。事務方だって一緒だと」。
採用担当は、学生と会社を橋渡しする最初の窓口。入社前から親身になって相談に乗る。そうして入社した学生を今度は社員として研修する。そうなると立場が一変。「会社の文句を言うと査定に響く」と敬遠されるようになった。辞めていくとすぐに人事担当者のせいにされてしまうのもつらいところだ。
「待遇は確かに大手には劣る。ただ、当社は人が少ない分、責任のある仕事を早くから任せてもらえる。歯車の一つで終わらない」。自社の魅力をそう語る。
そして何よりも人だ。「この会社には素晴らしい人がたくさんいる」。いつも思い出すのは、最初の現場で出会った所長の顔だ。人前で話すのは苦手だったが、面接や研修では、現場で周囲に怒られたり助けられたりしながら仕事を覚えていった自分の経験談を話すようにしている。
「この会社で働いていることを誇りに思えるようになってほしい。そのためにもみんなの頑張りが報われる会社にしなければ」
人事という仕事には会社を変えられる力がある。そう信じている。
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