上司のカラーに合わせられないことも… |
「もう大逆転はないかな」-。
建設業界で働く中堅技術者の今江晃さん(仮名)は、同じ会社で順調に出世していく同期の姿を頭に浮かべてそう胸の内を明かす。
もともとは技術研究職に就きたくて今の会社に入った。ところが、そんな希望はかなわず、これまでは品質管理や施工部門の仕事に携わってきた。人からはよく温厚な性格と見られるが、20代、30代のころは上司からの指示でも間違っていると思えば、はっきりと口に出して指摘することが多かった。当然、上司とはぶつかる。そんなことを繰り返したせいか、40代半ばを過ぎて気付くと、同じ世代の社員と比べても明らかに出世の遅い自分がいた。
今江さんが勤める現在の会社は、同業の会社と合併して発足した。社内では正式発表のだいぶ前から「合併」のうわさを耳にしていたが、実際に企業文化の異なる2社が一つになることがいかに大変かを、当時はまだ知るよしもなかった。
両社の技術者が交わって一つの現場を施工するようになり、最初に感じたのは現場技術者に課せられた役割と責任の違いだった。自身の出身会社では、現場の技術者には施工管理にとどまらず、原価管理という利益を得るための業務が明確な役割としてあった。若いころからその大切さをたたき込まれてきたが、一方の会社はそうした役割がどうも細分化されてきたようで、「最初は違いに戸惑った」という。
「今では社内で旧◯◯、旧□□の社員などと意識することはなく、合併後に入社した社員も多い。合併してしばらくは新社名になじむことができなかったことを考えても、よくここまで来たという実感はある」。
現在は主に民間工事を担当している。専門とする工種は夜間工事が多く、近隣対策には細心の注意を払う日々だ。これまでにさまざまなクレームに対応してきたが、中でも気が重いのは年度末の工事。ちょうど受験シーズンと重なるため、受験生がいる家からは、夜間工事で出る音や振動に対して強い抗議を受けることが多い。
「土木や建築を問わず、一般市民の生活圏に入っての仕事では、近隣にいろいろな考えの方々がいるので、どこの現場もそうした近隣対応なしでは工事を進められないはず。かつてあまりに強いクレームを受け、工事を中止した現場もあったが、それでも丁寧に理解を求めていくしかない」
会社での目下の悩みは、若手社員の気質がどうにも理解できないこと。会社は「ノー残業デー」を設けるなど、できるだけ労働時間を減らす取り組みを展開しているが、どうしても書類整理などで事務所に遅くまで残らなければならない日もある。そんな時に指示を出すと、あからさまに「それは困る」という態度を取る若手もいる。
「労働環境は改善されていかなければならないけれど、若手の彼らが中堅になって第一線に立つ時、ものづくりの世界はどのようになっているのだろうか」
心配は尽きないが、だからこそある思いが強くなっている。
「大逆転は無理でも、このままでは終われないな…」。
0 comments :
コメントを投稿