◇知恵絞る自治体、事業実施へあの手この手◇
近世・武家文化を今に伝える城郭建築。貴重な文化財である天守閣や史跡は、まちのシンボルとして市民の手で守り継がれてきた。青森・弘前城ではこの夏、100年ぶりの大改修が始まった。重さ400トンの天守を移動させ、約10年かけて石垣を改修するという大事業だ。各地で城郭建築が改修時期を迎えている。重要な観光資源である城郭を最大限に生かし、地域を活性化させようと奮闘する各地の動きを紹介する。
曳き家に備え足場が組まれた弘前城天守 (8月16日撮影) |
工事期間中は周辺の立ち入りが制限されるなど観光への影響が大きい。そこで葛西憲之市長の号令で始まったのが「HIROSAKI MOVING PROJECT」。工事を「マイナスではなくプラスに転換」(葛西市長)し、イベントとして盛り上げようという試みで、曳家に先駆けて天守を地面から切り離す「地切式」を皮切りに、工事の節目を市民や観光客が参加できる催しに仕立てた。一連のイベントの中で最も人気を集めたのが9月20~27日の曳家ウイーク。事前に応募した市民や観光客3900人が人力による曳家を体験。8日間で有料区域の入場者数は3万人を超え、9月の1カ月では、同じく大型連休があった09年の約2・5倍となる約5万人が本丸を訪れたという。
曳家ウイークでは、延べ3900人が曳家を体験した |
イベントでは施工者の技術者、技能者が来場者に工事のポイントを説明 |
平成の大改修を経て、姫路城は多くの来場者でにぎわう |
国指定の史跡や名勝などの維持・補修には事業費の50%に国の補助金を充てられる。文化庁は15年度に「歴史活き活き!史跡等総合活用整備事業」を始め、史跡の「保存」と「活用」を支援する補助金制度を一本化した。保存・修復を担う自治体などへの支援を通じ、史跡を活用した地域活性や観光振興を図るのが狙いだ。
◇課題は長い事業期間と資金調達◇
文化庁は16年度予算の概算要求に、保存修理が主な目的の事業に約34億円、活用を主眼にした事業に約40億円をそれぞれ計上した。活用事業には15年度予算額より約16億円上積みした。これらは「文化財を管理する自治体などの要望をヒアリングした結果に基づく数字」(記念物課)という。歴史的建造物の復元整備など活用事業の拡大が見込まれると読み取れる。
国の補助が得られない事業費の半分は、基本的に各自治体が調達することになる。そこで用途を指定した寄付制度が活躍している。熊本城や京都・二条城では「一口城主」と銘打って支援を寄せた市民に特典を用意。熊本城はこれまでに5億9000万円以上を集めた。弘前市はふるさと納税に石垣改修を支援する特別コースを創設している。
大都市にも動きがある。名古屋市は名古屋城天守閣の木造復元に向け、本年度中にゼネコンから技術提案を募集することにしている。市は12月から、各地で事業説明会を開く。数百億円とも言われる再建費用をめぐり、市民の合意形成が鍵になると考えているようだ。
広島大学大学院・三浦研究室が作成した江戸城天守の再現パース (ⓒ江戸城を再建する会) |
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