2015年11月26日木曜日

【全国各地で動きぞくぞく】城郭整備、地域活性化や観光振興にどう活用


 ◇知恵絞る自治体、事業実施へあの手この手◇ 

 近世・武家文化を今に伝える城郭建築。貴重な文化財である天守閣や史跡は、まちのシンボルとして市民の手で守り継がれてきた。青森・弘前城ではこの夏、100年ぶりの大改修が始まった。重さ400トンの天守を移動させ、約10年かけて石垣を改修するという大事業だ。各地で城郭建築が改修時期を迎えている。重要な観光資源である城郭を最大限に生かし、地域を活性化させようと奮闘する各地の動きを紹介する。

曳き家に備え足場が組まれた弘前城天守
(8月16日撮影)
 弘前城は1611年に弘前藩主・津軽氏が築城。現在の天守は1810年に再建された。全国に12ある現存天守の一つで、国の重要文化財に指定されている。崩壊の危険性がある天守下の石垣を改修するため、8月から約3カ月かけて天守の曳家工事が行われた。16年度から石垣を解体して積み直す本体工事に入る。天守を元の台座に曳き戻すのは21年の予定だ。

 工事期間中は周辺の立ち入りが制限されるなど観光への影響が大きい。そこで葛西憲之市長の号令で始まったのが「HIROSAKI MOVING PROJECT」。工事を「マイナスではなくプラスに転換」(葛西市長)し、イベントとして盛り上げようという試みで、曳家に先駆けて天守を地面から切り離す「地切式」を皮切りに、工事の節目を市民や観光客が参加できる催しに仕立てた。一連のイベントの中で最も人気を集めたのが9月20~27日の曳家ウイーク。事前に応募した市民や観光客3900人が人力による曳家を体験。8日間で有料区域の入場者数は3万人を超え、9月の1カ月では、同じく大型連休があった09年の約2・5倍となる約5万人が本丸を訪れたという。

曳家ウイークでは、延べ3900人が曳家を体験した
 イベントや工事の様子が国内外で大きく報道されたことで「25億円以上の広告効果があった」と葛西市長。ホテル稼働率や土産物店の売り上げアップなどあらゆる方面で効果が見られたとイベントを総括した。曳家を終えた天守は15年度中に補強工事を終え、16年4月から一般公開される。葛西市長は「できるだけ多くの人に21世紀最初で最後の大事業を見てほしい」と語っている。

イベントでは施工者の技術者、技能者が来場者に工事のポイントを説明
 まちの宝とも言える城郭の改修は管理者にとって一大事業だ。大規模な耐震化工事が必要とされる城もあり、工法選択や財源確保に頭を悩ます自治体も多い。加えて近年は史跡などを維持・補修するだけでなく、公開・活用して地域活性化に生かすという役割も重要視されてきた。

 国宝・姫路城(兵庫県姫路市)は平成の大修理を終えた今年、入場者数が初めて200万人を突破して過去最高を記録。工事期間中は天守を覆う素屋根内部に見学施設「天空の白鷺」が設けられ、約3年間で180万人が訪れた。観光の目玉である城の閉鎖中にも経済効果をもたらした好例といえる。

平成の大改修を経て、姫路城は多くの来場者でにぎわう
 1998年から復元整備を進めている熊本城(熊本市)。史実に基づき城内の複数の建造物を伝統工法を用いて再現する計画で、08年には50億円超をかけて豪華絢爛けんらんな本丸御殿が完成した。一時期落ち込んでいた入場者数は本丸御殿の完成で回復。08年は過去最多の200万人以上となり、全国の城でトップだったという。一連の整備は17年度まで続く予定だ。

 国指定の史跡や名勝などの維持・補修には事業費の50%に国の補助金を充てられる。文化庁は15年度に「歴史活き活き!史跡等総合活用整備事業」を始め、史跡の「保存」と「活用」を支援する補助金制度を一本化した。保存・修復を担う自治体などへの支援を通じ、史跡を活用した地域活性や観光振興を図るのが狙いだ。

 ◇課題は長い事業期間と資金調達◇

 文化庁は16年度予算の概算要求に、保存修理が主な目的の事業に約34億円、活用を主眼にした事業に約40億円をそれぞれ計上した。活用事業には15年度予算額より約16億円上積みした。これらは「文化財を管理する自治体などの要望をヒアリングした結果に基づく数字」(記念物課)という。歴史的建造物の復元整備など活用事業の拡大が見込まれると読み取れる。

 国の補助が得られない事業費の半分は、基本的に各自治体が調達することになる。そこで用途を指定した寄付制度が活躍している。熊本城や京都・二条城では「一口城主」と銘打って支援を寄せた市民に特典を用意。熊本城はこれまでに5億9000万円以上を集めた。弘前市はふるさと納税に石垣改修を支援する特別コースを創設している。

 大都市にも動きがある。名古屋市は名古屋城天守閣の木造復元に向け、本年度中にゼネコンから技術提案を募集することにしている。市は12月から、各地で事業説明会を開く。数百億円とも言われる再建費用をめぐり、市民の合意形成が鍵になると考えているようだ。

広島大学大学院・三浦研究室が作成した江戸城天守の再現パース
(ⓒ江戸城を再建する会)
 東京ではNPOが360年前の江戸城天守を再建しようと活動を続ける。「江戸城を再建する会」の小竹直隆理事長は「首都を象徴するモニュメントの再建」を目標に掲げ、市民が主体となって事業化を目指すとしている。10年単位の長い事業期間と自治体には重い財政負担。そのハードルを乗り越えるために各地が知恵を絞る。広報による機運醸成や、城への愛着心を喚起して支援を集める制度づくりなどがキーワードに浮かぶ。これらをノウハウとして蓄積すれば、全国の城郭建築を美しい姿のまま後世に引き継ぐことができるかもしれない。

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