テクノロジーは進歩しても、人間の能力は大して変わらない |
東京都内の建築現場で働く鉄筋工の島田克道さん(仮名)。パソコンを使いこなして配筋図を描き、工程管理、材料管理、労務管理、お金の管理と何でもこなす異色の職人として現場で重宝されている。鉄筋工になったのは24歳の時。車関係の仕事をしていたが、鉄筋工をしていた友人を手伝うため、1年間の期限付きでこの世界に入った。
「学力を問われず、頭を使うことが苦手な人が体を使って働く」-。当時、建設労働者にはそんなイメージを抱いていたが、実際に働いてみると「トップの人たちは皆、頭を使っていた」。1年間、そういう場面を目の当たりにして職人の世界の奥深さを感じ、仕事が楽しくなっていった。以来、この世界で二十数年がたつ。
もちろん転職当時の現場には、パンチパーマで肩で風を切るように現場を歩くイメージ通りの職長も多かった。一緒に仕事をしているうちに「なりたい職長はそうじゃない」と感じるようになった。「例えば、大工さんが怖い人でも、自分の知識とやっている仕事が確かなら、普通に話すだけで対等に渡り合える。基本、目指していたのは『インテリな鉄筋屋』」。
図面を描くようになったのは、鉄筋工になって3年目のころ。当時の社長に「おまえには施工図が向いているからやってみろ」と言われ、それから配筋図を描くようになった。
「高い所から大声で職人に指示を出すのではなく、元請から図面データをもらい、それを基に一目で仕事が分かる配筋図をパソコンで描いて職人に渡す。それが理想の職長像」と考えている。
今、頭を悩ませているのが、後継者の育成だ。会社に若い職人は入ってきているが、自分の後を託せる中堅世代の人間がいないという。「会社に中堅世代がいないことで、今の若い人間は、本来は中堅がやるような仕事もやらなければならない。そこにつらさを感じる。職人を目指して入ってきた人間が、技能も身に付けていないうちにほかの仕事もやらされたら、『何で俺は職人なのにこんな仕事まで』と煩わしさを感じるのは当たり前」と思う。「だからこそ、自分は精度の高い図面を描く」。
今、会社には若手だけではなく、外国人技能者も増えているという。「専門的な知識を持たない、言葉も通じない中で作業内容を説明するのは難しい。でも視覚的に分かる図面があれば、壁にはならない。一目見ただけで仕事ができるようにすることを心掛けている」。工程管理でも、他の職長の話を聞き、他職種の仕事を把握しながら作業の錯綜(さくそう)を避ける工程表を作っている。
「今の建築物は形状も構法も複雑化している。技術は進化しても、実際に仕事をする人間の能力は数十年前と大して変わらない。だからこそ寸法の計算や他職種との調整など、職人の負担を少しでも減らし、現場作業に集中させたい」。枠にとらわれない広い視野を持ちながら、きょうも現場の隅々に気を配っている。
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