新入社員だけでコンクリート桁の製作にゼロから挑戦する-。三井住友建設が土木系新入社員の実技研修でそんなユニークな取り組みを行っている。研修内容は2主版桁を6週間かけて新入社員だけで完成させるというもの。完成後にPC(プレストレストコンクリート)の緊張力検査まで行う本格的な工事で、新入社員にとって難易度は高い。失敗を重ねても最後までやり通すチャレンジ精神を身に付けてもらうことがこの研修の狙いだ。
□6週間かけてコンクリート桁を製作□
研修は7月上旬から8月中旬にかけて愛媛県新居浜市にある同社四国支店敷地内で行われた。土木系新入社員36人が8チームに分かれ、図面の作成、資材の発注、足場の組み立てなど、桁製作の一連の作業に挑戦した。
土木系新入社員を対象としたものづくりの実技研修は昨年度から実施しており、今年で2回目。研修を統括する土木本部の堀内剛本部次長は、「ゼロからものをつくることは簡単ではないが、失敗を繰り返して得た知識は忘れない」と研修の意義を強調する。
7月下旬にはコンクリートの打設に着手した。コンクリートを流し込み、バイブレーターやこてを使っての作業も行った。堀内本部次長も各作業現場をまわりながらアドバイスを出すが、作業はあくまでも新入社員のみで行う。慣れない作業に戸惑いつつも、互いに声を掛け合い、時には他チームの様子をのぞきこみながら、各チームが課題の達成を目指して取り組んだ。
各チームではリーダーを選び、全体の指揮や完成に向けた工程管理などを担う。技術本部の中村隆史さんもその1人。
チーム内の情報共有がうまくいかないと作業に時間がかかってしまう。工期内に確実に完成させるためには密接なコミュニケーションが不可欠だ。そのため、「さまざまな意見が出る中で、一つ一つ何がベストなのかを話し合うようにしている」(中村さん)という。
ものづくりが好きで建設業に入ったという中村さん。「ゼロから考えて組み立てているので、ものづくりをしているという実感がある。苦労もあるが、それを含めて楽しい」と笑顔で話す。
リーダーを支えるのもメンバーの重要な役割だ。カンボジア出身で東京土木支店のテプ・メターさん
(写真右)がいるチームでは女性がリーダーを務めている。そのため「重いものを持ったりする力仕事を彼女がしなくてもいいように気を配り、リーダーとして全体の指揮に集中できるようにしている」とリーダーを気遣う。
メンバーの体調管理にも気を配っており、「暑い日が続いている。本人が大丈夫と言っても、客観的に見て体調が悪そうな人がいたら強制的に休んでもらうように声掛けしている」(メターさん)という。
参加者36人のうち5人が女性社員。女性社員も自分にできることを探してチーム運営に貢献している。別のチームで作業に臨んだ東京土木支店の長谷川真悠さんは「自分はほかの男性メンバーのようには力仕事をこなすことはできない。その代わりに図面を描いたり、指示を出したりする側にまわっている」と自身の役割を果たそうと懸命に取り組む。
長谷川さんはコンクリート打設の経験が唯一ある。高等専門学校時代に授業の一環でコンクリートを打設した。「自分も当時は職人から教えてもらった。メンバーの中に鉄筋の結束などが苦手そうな人がいればアドバイスするようにしている」という。
□ゼロからものづくり、チャレンジ精神養う□
時には意見のぶつかり合いもある。「チーム作業は難しい。図面作成の段階からチーム内で意見がぶつかった」と話すのは九州支店の井上佳純さん
(写真左)。「実際に足場を組む段階になって初めて、計画通りに足場が収まらなかったりするなど、想像していた通りにならないことだらけ」と戸惑いを見せる。
就職活動では公務員になるか、ゼネコンに入るかで迷った。最終的には「現場に出たい」という気持ちからゼネコンを選んだ。汗をかきながら構造物をつくりあげていく実技研修は「うまくいかないことも多いが、現場での作業は楽しい」と話す。
実際の現場では社員は協力会社に指示を出す立場。自ら手を動かして作業することはない。しかし堀内本部次長は「協力会社がする作業を自ら経験することで、その苦労や着目すべき点を知ることができる。実際の現場では資材も機械を使って運ぶが、あえて自分で運ばせることでその重さや苦労を理解してもらう」と研修の狙いを説明する。
失敗を重ねながら完成を目指す新入社員に対しては「最後まで諦めずに取り組むことで、ものづくりの達成感や、満足感を味わってもらいたい」と期待を寄せる。新入社員は半年間に及ぶ研修期間を経て、それぞれの配属先で10月1日から本格的な仕事に臨むことになる。