中日本高速道路会社が多様な働き方を支援する「働き方のダイバーシティマネジメント」を展開している。女性社員の活躍推進を重要課題に位置付け、女性が働きやすい職場づくりに積極的に取り組む。前身の日本道路公団(JH)時代から分割・民営化した東日本、西日本を含む高速道路3会社で女性初の事務所長となった東京支社小田原保全・サービスセンターの吉田陽子所長は「ダイバーシティー(人材の多様性)で多様な視点がもたらされ、組織の活性化につながっている」と強調する。
◇女性が働きやすい環境整備◇
女性管理職の登用拡大を見据え、中日本高速会社は新卒採用の女性比率の目標値を30%以上と設定している。ここ数年の新規採用者の女性の割合は30~40%強で推移し、全社員2164人(4月時点)のうち、女性社員は約15%の331人となる。
女性基幹職(管理・監督業務を含め基幹的業務に携わる社員)は227人で、2005年10月の民営化時点の約11倍に増加。女性の管理職は7人(3月時点)で、20年までに10人を目標に掲げる。
社内では「女性が働きやすい職場推進会議」を定期的に開催。▽結婚・出産・育児▽コミュニケーション▽作業服・現場トイレなどの施設関係▽既存の人事制度の活用▽仕事の仕方・配慮・意識-の5テーマに沿って、女性社員の不安解消や課題解決に向け対応策の検討・提案・具現化を進めている。これまで女性用作業服のリニューアル、育児のための制度ブックの作成などに取り組んだ。
当初は名古屋支社の女性基幹職を中心とした会議だったが、今春には全社の若手女性社員を組織横断的に集めて会議を3回に分けて実施。育児といったライフイベントを迎えた時などを踏まえ、仕事と家庭を両立させた働き方や制度の在り方について意見交換した。
JH時代に2期目の女性総合職として採用された吉田所長。前年の1989年に入った初代の女性総合職の先輩は既に退職しており、民営化後の高速道路3会社では東日本高速会社の同期1人とともに最も経験の長い女性基幹職となる。「当時は研修や会議に出ても常に紅一点で珍しがられることが多かった。自分では意識していなくても『女性総合職』のカテゴリーを背負っているような気持ちを持っていたかもしれない」と振り返る。
女性社員の増加について「性別も個性の一つとして、それ以上でも以下でもなく、周囲に自然に受け入れられるようになってきた」と分析。民営化以降は多様な働き方に対応した環境整備が進んだと評価する。
育児休暇は子どもが満3歳の年度末まで(法律は最長2歳まで)取得可能。時短勤務も小学校3年生まで(法律は満3歳まで)活用できる。産休・育休中も会社のイントラネットにアクセスでき、会社とのつながりを保てる。17年にはさまざまな理由で退職した社員を再雇用するジョブリターン制度、配偶者の海外勤務などに同行できる休業制度も創設した。
自社のダイバーシティー対応を推進するため、吉田所長は09年度から2年半ほど、本社(名古屋)の総務・人事部門に異動し単身赴任で勤務。「不安もあったが、家族や会社の協力を得て仕事に打ち込めたことは、公私両面で自信につながった」と話す。
当時創設した地域限定基幹職(ブロック基幹職)制度は全国転勤が難しい社員が基幹職に挑戦できるよう、隣接する三つの都県単位に転勤範囲を限定したコース転換制度。これまでブロック基幹職に転換した女性社員は12人。「いろんな形で基幹職に挑戦できる環境も整っており、職種や性別にとらわれず多様な視点やスタイルで仕事に携わり、充実感を得てほしい」と呼び掛ける。
14年8月に国土交通省が主導し官民共同で策定した「もっと女性が活躍できる建設業行動計画」。5年以内に女性技術者・技能者の倍増を目指し、多方面でさまざまな取り組みが進む。
◇多様な働き方支援、管理職への登用も拡大◇
中日本高速会社では女性技術者が働きやすい現場環境を目指し、多機能車両「サクラ」を開発した。行動計画を受けてグループ会社が女性技術者にヒアリングし、現場作業の際に必要とする意見が多かった「トイレ」「休憩スペース」「パウダースペース」の3機能を搭載。高速道路の点検業務や集中工事の監督業務など、高速道路の交通規制内の作業で女性が働きやすい環境を提供する。
地域連携とともに、多様な人材の育成を推進する取り組みの一環で、16年度から「地域づくり支援プロジェクト」を展開中。社員が地域のパートナーと協働し、企画段階からクラウドファンディングを活用して実現、実施に至るまで一貫して携わることで、ソーシャルビジネスの知識や事業化ノウハウの習得、チャレンジ(起業家)精神の醸成、新たなビジネスモデルの創造などを狙う。
こうした取り組みが、社会価値を生み出す持続的な経営・組織づくりの取り組みを表彰する「KAIKA Awards(カイカアワード)2017」(主催・日本能率協会)で大賞を受賞した。
小田原厚木道路、西湘バイパスといった地元の人たちの暮らしや地域経済に密着した有料道路を管理する吉田所長は「沿線地域との連携には力を入れている。顔の見える関係づくりは道路の建設や保全・管理には欠かせない」と強調する。
グループ経営方針に掲げる「安全を最優先に、高い使命感と矜持(きょうじ)を持った人財の育成」に基づき、自ら考えてリーダーシップを発揮し、環境変化への感度が高く、現場力の強い社員の育成に継続的に取り組む。
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