2018年11月5日月曜日

【駆け出しのころ】IHIインフラシステム取締役・森内昭氏

 ◇実際に見て想像力を働かせる◇

 新入社員研修は横浜の工場で3カ月間行われ、溶接の実習なども受けました。もともと自分の手で物を作るのが好きでしたので、そうした実習がとても面白かったのを覚えています。

 最初に配属されたのは技術研究所流体・燃焼研究部で、橋梁やビルの模型を使った風洞実験などに携わりました。机にずっと向かっているよりは、実験場で模型やデータを見ながら思考している方が自分には向いていたのですが、上司からの仕事に対する要求はかなり厳しいものがありました。

 当時の課長は社内でも知られた厳しい方で、仕事への姿勢やデータのまとめ方などについて細かく指導されました。とにかく要求に応えるのが大変で、何度か会社を辞めたいと考えたこともあります。でも、この方に教えていただいたことが、今の自分につながっていると思っています。

 5年目からは2年間、海洋架橋調査会に出向しました。出向中に大型風洞実験施設で実験していた時のことです。長大つり橋の模型による実験の模様をビデオで撮影していたのですが、途中で電池が切れてしまったため、予備のものを取りに行こうと実験室を出ました。そのほんのわずかな時間でフラッター現象が起き、模型がひっくり返り壊れてしまったのです。

 米ワシントン州のタコマ・ナローズ橋が大きくねじれながら落橋した事故の原因として知られる現象です。模型を壊したことも問題なのですが、私はその貴重なシーンを実験室の外から見ただけで、映像に残すチャンスを逸してしまいました。周りの人からも残念がられ、今、こうして振り返っても悔しい気持ちでいっぱいになります。

 かつて担当した橋梁の補強工事では、設計者として現場にも出ていました。あまりに採算が合わず、他社が撤退していく中、発注者から「技術的に信用しているので継続してほしい」と言われて踏みとどまったことがありました。社内では、当初は大赤字で怒られましたが、会社の技術を信用していただいたことがうれしく、また、その後は費用もみていただけるようになり、続けて良かったと思っています。

 会社でこれまでの経験も踏まえて言っていることは、実際に物を見ることの大切さです。設計標準に合わせて図面を描いたとしても、実際に形づくられたものを見てイメージとの違いに驚いたこともありました。想像力を働かせるためにも、実物をしっかり見ることが必要です。 

 最近の若い人たちを見ていると、真面目で一生懸命なのは分かるのですが、良い意味での遊び心を持ってほしいと思います。それぞれの能力を伸ばしていくため、100%ではなく、もう少し上の110%のことをやってもらいたいとも考えています。そうやって新しいこと、難しいことでも積極的にチャレンジしていってほしいと期待します。

 (もりうち・あきら)1989年東海大大学院工学研究科航空宇宙学専攻修了、石川島播磨重工業(現IHI)入社。機械鉄構事業本部橋梁事業部設計部課長、IHIインフラシステム理事橋梁技術部長などを経て、17年6月から現職。三重県出身、54歳。

建設中の明石海峡大橋のキャットウオークを歩く
(手前から2人目が本人)

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