現場のマネジメントも生産性向上も、職人との向き合い方が鍵となる |
安全表彰を受けるための出張から現場に帰ってくると、あるベテラン職人が昼休みにトイレの清掃を行っていた。誰もが気持ち良く使えるよう、現場では1日に必ず1回は清掃することを決まりにしている。ルールを超えて清掃する理由を職人に尋ねると、「1日1回ではきれいになりにくいこともあるから」と淡々と答えてくれた。
「こういう職人に現場は支えられている」。ゼネコンに入社して25年になる現場所長の小関裕太さん(仮称)は、現場を大切に思ってくれるこの職人の善意に感謝し、表彰することにした。回数や時間を決めれば、職長会が当番を決めてくれて、丁寧にトイレの清掃を行ってくれる現場は多いが、求められたからではなく、ただ現場のためを思ってしてくれた行動が素直にうれしかった。「現場はきれいでないといい仕事はできない」と先輩から教わってきた。労働環境の整備にはこれからもこだわるつもりだ。
「表彰されたことを伝えたら、かみさんがすごく喜んでくれたよ」と、表彰した職人が照れながら話してくれた。現場関係者の懇親を深めようと思って企画したイベントに孫を連れてきてくれたこともあった。「こういうつながりを大事にしたい。職人と職長会を大切にする」。当然のことながら、そう心掛けている。「やらされている感じではうまくいかない」。職人との付き合い方をそう感じており、「良かった、悪かった、もっとできた、とタイムリーに評価すること」を現場のマネジメントのポイントに挙げる。
休日を増やしたり、残業を減らしたりするために、会社が生産性の一層の向上を目指している。必要性を理解し、協力は惜しまないが、実現に欠かせないのは「現場からのアイデア」だと思っている。大量の部材を効率的に組み上げたり、揚重の回数を減らしたりするような工夫は、着工前から視野に入れている。それでも現場では刻々と変化する条件に応じて段取りや作業を変更する必要がある。
「おもしろいアイデアが生産性向上の鍵」。いいアイデアは、すぐ生まれることもあるし、時間がかかることもある。現場の技術者と職人それぞれからアイデアを引き出す必要があり、「まずは発想を否定しないこと」を会社に求めたいと考えている。
現場では、手順の確認や合意形成を促すのに加えて、元請と協力会社の英知を結集するために、構造物のモックアップの作成に努めている。「自信を持って作業に臨める」と手応えを感じており、機会があれば社内外に成果を積極的にアピールしている。
経験を重ねる中で、同業他社の所長との付き合いも長くなってきた。竣工に伴って他社の所長に譲った清掃道具や植栽用のプランターが巡り巡って自分の現場に戻ってきた。「この仕事は、人と人とのつながりで成り立っている」と改めて思うようになった。「いいとこ取りしながらお互いスパイラルアップしよう」。現場で奮闘中の同世代の活躍を励みに、所長として負けないよう「選ばれる現場づくり」にまい進する。
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