◇「一掃除、二作業」で品質・安全確保◇
建築が好きで、子供のころから方眼紙を使って家のプランニングのような遊びをしていました。大学では、地球物理学を専攻しようかとも考えましたが、あまりに難しい学問だったので、子供のころから興味のあった建築を専攻し、デザインや歴史などを学びました。
卒業後の進路として、研究者や設計者などが頭に浮かびましたが、先輩から「現場が面白いぞ」というアドバイスに後押しされ、現場技術者の道を歩むことにし、大成建設への入社を決めました。
新入社員研修後、最初の赴任地は大手銀行の吉祥寺支店の建築現場でした。大学では生産技術に関することは学んでおらず、毎日が驚きの連続でした。
当時、土曜の午後が休みの「半ドン」が一般的でしたが、建設現場は午後も仕事がありました。そのことを知らず、赴任した最初の土曜日、昼食を食べた後に作業着を脱いで帰ろうとしていたら、先輩から怒られてしまったことを今でも記憶しています。現場勤務はきつい面もありましたが、会社の先輩はもちろん、型枠工や鉄筋工など職人の方々に手取り足取り教えてもらい、楽しく仕事ができました。今でも感謝しています。
父親から「30歳まではがむしゃらに働け。若いころの評価が年を経ても周りの人たちの頭には残っている」と言われていました。20代の後半には、より責任のある仕事を任されるようになりました。突貫で大変な現場もありましたが、がむしゃらに頑張り全然苦には感じませんでした。
副所長、所長を務めた東京・品川の高層ビルの建設現場は、自分たちで最先端の施工技術を考えて導入するなど、特に思い出に残る現場です。職人の方々に良い仕事をしてもらうために、現場内の休憩所にシャワー室も設けるなど、明るく快適な職場環境づくりにも注力しました。
所長時代に現場で起きたトラブルは苦い思い出です。当時、精神的に落ち込んでいると上司の部長から「再発防止がお前の仕事だ。現場のみんなが見ている。暗い顔をしてはだめだ」と厳しくも心の込もった言葉をもらい、自分を奮い立たせるきっかけになりました。
全国の建築現場を管轄する立場になった今は「一掃除、二作業」という言葉を掲げ「とにかく現場をきれいにしよう」と伝えています。「一掃除、二信心」という禅宗の言葉があります。仏様を信じる前に身の回りや心をきれいにすることで、初めて仏様を信心できるという教えです。現場も整理整頓し清潔な環境で作業することが、品質・安全確保の原点になります。
若い社員にも責任を持たせ仕事を任せることで、ものづくりの楽しさややりがいを感じてもらいたい。われわれが造ったものが地図に残り続けることが、働くモチベーションになっています。学ぶことに“遅すぎる”はありません。私は60歳を過ぎた現在でも仕事もプライベートも日々自ら高めるという姿勢が大切だと思い実践しています。
入社4年目ごろに撮影した一枚。札幌支店時代に休暇で訪れた テレビドラマ「昨日、悲別で」(脚本・倉本聰氏)のロケ地で |
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