2019年7月1日月曜日

【中堅世代】それぞれの建設業・230

売り手市場だからこそ選ばれる会社にならなくてはいけない
 ◇誰にでも働きやすい職場づくりに奔走◇

 大学で建築を学んでいた桜井香織さん(仮称)が就職活動を始めた2000年の秋は、就職氷河期の真っただ中だった。女性というだけで資料が送られてこなかったり、採用選考に進めなかったりと、今とはまったく違う時代でもあった。

 就職活動中は建築関連の仕事を希望するも内定が全く得られず、「このまま就職できないのでは…」という不安が渦巻き、気持ちが休まることもなかった。思い切って方向転換し、理系というだけで大歓迎されたIT企業の試験を受けたところ、内定をもらうことができた。ただ「建築を学んだ4年間をどう生かせるのだろうか」という思いは拭えず、もんもんとした日々を送っていた。

 卒業論文に追われていたある日、就職サイトを見ていたら建設会社のIT系新卒社員の追加募集を見つけた。説明会への参加を申し込んだ時、思い切って「女性でも応募できるか」と問い合わせたところ、「問題ありません」と言われて安堵(あんど)した。こんな経緯で建設業の世界に足を踏み入れた。

 入社後の配属先は情報システム部門。建設現場や社内業務を支えるシステムの開発や導入、運用などに従事し、5年が過ぎたころに転機が訪れた。突然、人事部への異動を命じられたのだ。就職活動でつらい思いをしただけに、仕事とはいえ採用活動に携わることに複雑な思いを抱いたのは事実。しかし「厳しく、つらい思いをしたからこそ、この経験を生かして学生たちと正面から向かい合っていきたい」と自分を奮い立たせた。

 採用活動で理工学系の学生と接し、志望動機や理由などを尋ねるたびに「建築の仕事に携わりたいという思いは誰よりも分かる。熱い思いを受け止め、実現させてあげたい」との思いがこみ上げてくる。

 人事部では採用や教育に加え、働き方改革や生産性向上といった取り組みを後押しすることも業務の一つ。自身の出産と育児をきっかけに「もっと働きやすい会社に変えたい」との願いが膨らんだ。年齢や性格、学歴、価値観など多様な人たちが活躍できるようにと、ダイバーシティー(多様性)を推進するチームを立ち上げた。

 超売り手市場ともいわれる採用戦線。優秀な人材に選ばれる会社になるためにも「ダイバーシティーを推進し、誰にでも魅力のある職場にしていかなければいけない」という思いを強くしている。

 ワーク・ライフ・バランス(仕事と家庭の調和)の本質を「仕事と生活のどちらかに偏るのではなく、社会的活動を含めたライフとワークの充実が生み出す相乗効果にあるもの」ととらえている。働くことの意味とは何か。生活やお金のためはもちろんだが、仕事を通じて社会に貢献することも、働く理由の一つになるはずだ。

 建設の仕事はインフラや建造物の整備、維持管理などを通じて社会に貢献できる。「建設の仲間を増やし働き続けることができる職場になるようにこれからも頑張る」。強い決意を胸に秘め、これからも前を向き続ける。

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