2019年7月8日月曜日

駆け出しのころ/鹿島執行役員原子力部長・田中栄一氏

 ◇視野広げ経験と知識深める◇

 高校生の頃から建物に興味を持ち、東京・西新宿の超高層ビルなどをよく見に行ったり、上ったりしていたことが思い出されます。大学で建築を学び、ものづくりに携わりたいという思いが強くなりました。

 鹿島に入社後、いきなり原子力部門に配属され、どんなことをやるのだろうと多少の戸惑いもありました。先輩や上司はもちろん、付き合いの深い電力会社や機電メーカーの方々からも多くのことを教えてもらいました。

 最初に携わった案件は中部電力の浜岡原発。設計部での2年間の勤務を経て、3年目に実際の現場に赴任。新米はいろいろな検査記録の作成も任され、忙しかったですが得るものも多く、技術者としての原点になった現場です。

 当時の所長、副所長が若手に現場のさまざまなことを経験させようと考え、鉄筋や型枠、コンクリート、鉄骨など基本的な工事作業を3カ月交代で担当しました。大変でしたが短期間で現場のことを一通り学べました。

 安全性・信頼性が特に重視される原発は堅固な建物で、基礎や壁も厚く、鉄筋も密に入れていきます。現場は決してスマートではなく、泥臭い作業の連続。こうした地道な作業によってものが造られていくのだと体感できました。

 フランスで建設中の国際熱核融合実験炉(ITER)の国際設計チームに1994年から1997年まで参加した経験も大きな糧となりました。数カ所に分かれて設計作業が進められ、米・サンディエゴでの多国の技術者との交流は、物事の考え方やアプローチの仕方など、視野を広げてくれました。

 原子力畑を歩いてきた自分にとって、東日本大震災は大きな転機。それまで原発の新設事業で忙しくなっていたのが、福島第1原発の事故や停止中の既設原発の再稼働への対応がメインとなりました。これまで原発整備に関わってきた会社として、きちんとやり遂げなければいけないと強く感じています。

 原発関連の事業はお客さまとの関わりが特に深く、「誠心誠意」で仕事にまい進し、信頼関係を築くことが大切です。新設は難しい状況ですが、再稼働に向けた特定重大事故等対処施設(特重施設)は大規模な工事。こうした現場などに若手を送りながら、視野を狭めず、広い観点から原子力関連の技術の継承・発展を図っていきたい。

 いろいろな意見がありますが、原発は日本にとって必要なエネルギーだと思います。震災以降、原子力をやりたいと入ってくる新卒の社員も少なくありません。社会インフラとしての重要性や影響の大きさなどを理解した上で、経験と知識を深めていく。細かな技術的なことだけでなく、常に社会や事業全体を意識しながら誇りを持って仕事をしてほしいです。

入社3年目頃、浜岡原発の工事現場で(前列右端が本人)
(たなか・えいいち)1982年東京大学工学部建築学科卒、鹿島入社。原子力部原子力設計室長、同企画室長、原子力部長を経て、2016年4月から現職。熊本県出身、60歳。

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