2019年7月8日月曜日

【中堅世代】それぞれの建設業・231

若手に自分を変えるチャンスを作ってあげる。
それも経営者の使命だと考えている
 ◇自分にしかできない仕事を◇

 東京都内を中心とする現場で鉄筋工として働く鈴木健太郎さん(仮名)。活気あふれる現場で汗を流す傍ら、企業経営者として担い手の確保・育成に奮闘している。「若手社員を育て手に職を付けてもらうのが今の自分の使命だと捉えている。日々の仕事を通じて鉄筋工事の醍醐味(だいごみ)を感じ、将来設計を描いてほしい」と話す。

 鈴木さんが建設業界に飛び込んだのは16歳、中学を卒業してすぐのことだ。知人の紹介で鉄筋工事会社に就職。当時は建設業界に全く興味がなかったが、16歳で社員として働けるところはなく「お金が稼げれば何でもよかった」と振り返る。

 入社後は座学での研修などはあるはずもなく、働き始めたその日から現場に出た。OJTで基本的な作業は教えてくれたものの、2週間もたたないうちに一人での仕事を命じられた。右も左も分からない自分。先輩社員の働きぶりを横目で見ながら手を動かした。どうしても分からないことがある時だけ恐る恐る先輩に聞き、仕事を覚える日々を過ごした。

 四苦八苦する毎日は面白いはずもなく、すぐに仕事を辞めたくなった。けれども行く当てもなく、16歳の少年には辛抱するしかすべがなかった。

 入社した年の夏、大きな転機が訪れた。鈴木さんの仕事を近くで見ていた他の会社のベテラン職人から、配筋の出来栄えで注意を受けた。「作業は間違っていないが、配筋がきれいじゃない。やり直して」と一喝され、続けて「鉄筋は人間の骨格に当たる部分で必要不可欠なもの。コンクリートに隠れてしまって見えなくても、建物がなくなるまで残り続ける大切な部分だ。自分の仕事に誇りを持て」とも言われた。

 それまで他人の仕事には目もくれなかったが、ベテラン職人の配筋を見て、仕上がりの美しさに衝撃を覚えた。その出来事から「自分にしかできない仕事をしたい」と強く感じ、生活のためだけに働くという考え方が一変した。

 それからは技術を磨きたい一心で仕事漬けの日々を過ごし、入社から17年後に独立。今では5人の社員を従える。

 そんな鈴木さんが最も頭を抱えるのは人材の確保と育成だ。さまざまな事情のある人たちも含めて積極的に採用しているが、なかなか思うようにはいかない。「しっかり働いてくれる人がいる一方、1日で辞める人も少なくない」のが現実という。

 言葉や自分自身が働く姿で社員のモチベーションを高めることが、自分の役目と肝に銘じる鈴木さん。昔の自分と同じように「『自分にしかできない仕事』が見つかれば、おのずと前向きに取り組めるようになる」と思っている。

 「自分を変えるチャンスを作ってあげたい」という信念を貫き、「誇りを持って仕事ができる若手を一人でも増やしたい」と目を細める。

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