関係者の合意形成は簡単に進まない… |
船頭多くして船山に登る-。プロジェクトを進める際に協力者が多いのは頼もしい限りだが、いざ計画を固める段階になると、それぞれの利害がぶつかり合って事業が暗礁に乗り上げることも少なくない。
東京都内の公共機関で、再開発プロジェクトなどの調整役を担う井上太一さん(仮名)。関係者それぞれの主張に耳を傾け、事業全体の方向性をまとめる役回りを担う。意見が異なる船頭たちが向かう行き先を束ねる「航海士」のような存在だ。
外からも内からも飛び交う勝手な言い分の板挟みになって逃げ出したくなる時もあるが、最後は開発によって地域をより良くしようという共通目標を訴えて理解を求める。ベストな計画をつくるには、誰もがどこかで譲歩することが不可欠だ。
勤務先の公共機関が地権者としてプロジェクトに参画することもある。「現場をよく知らないうちの幹部も『相手にばかりうまい汁を吸わせるな』と自分勝手なことを言ってくる。そんな時は、『目先のことにとらわれると全体の便益が小さくなり、結果としてわれわれの取り分も少なくなりますよ』と説明する」
施設計画を検討する際には、障害者などからも意見を聞くことがある。最近は主だった公共・民間施設のバリアフリー化が進み、一定の水準に達しているものと思っていたが、「使い手の実態に合わず、形だけのバリアフリー」と指摘されたこともある。
計画が固まっても、設計を進めるうちにさまざまな問題が浮上することもしばしば。施設の仕様や性能、工程、コストなどをより現実的な視点で見直していくと、当初の想定通りに事業が進むことはむしろまれだ。最近は資材費の高騰や人材不足による労務単価の上昇などもあり、事業環境も恵まれているとは言い難い。
そんな中で、全員が納得できる着地点を目指す暗中模索の日々が続く。
最近、大きな話題になっている新国立競技場の建設事業の行方が気に掛かる。関係者がそれぞれ異なる意見を言い合い、互いの利害で一喜一憂する姿が再開発プロジェクトの調整過程に重なるからだ。
「事業を進める船頭の要望に応える設計会社や建設会社らの対応を船頭側が問題視するのはお門違い」と思う。「事業者の見通しの甘さから工期が間に合わず、コストが膨らむといった事態に陥った。設計段階から事業に加わる建設会社は、いわば尻ぬぐいを任された形だ」。
そもそも、コンペの作品を完成形と捉えたことに無理があったというのが井上さんの見立てだ。「コンペのデザインを踏まえて現実的な設計を作り込む。さらに机上での検討内容を施工者の現場感覚を通して見れば、できることとできないことがさらに明確になる。修正が加わるのは当然のこと。現場を無視した議論は不毛に感じる」という。
「五輪を成功させるというのが共通の目標。それに向かって関係者が一致団結してほしい」。プロジェクトをまとめる仕事をする立場から、そう願うばかりだ。
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