過去を美化するのは人の習い性といってよいかもしれない。思い出を都合良く脚色したり、嫌な出来事より楽しい出来事を多く思い出したり▼こうした記憶の「バイアス作用」は、太古からの進化の過程で脳に備わった機能らしい。「昔は良かった」-。お決まりの文句を口にしたことのない人は、年齢を重ねるほど少なくなるだろう▼過去の美化が個人の思い出のレベルにとどまっているうちは罪もないが、政治や企業経営などに持ち込まれると厄介である。「昔は…」と誤解と独り善がりで美化された過去や成功体験の記憶が、冷静であるべきリーダーの判断を誤らせることは往々にしてある▼古典エッセイストの大塚ひかりさんが著書で、この「昔は良かった」式の思考を一刀両断。人のやることは昔も今も同じと喝破している(『本当はひどかった昔の日本 古典文学で知るしたたかな日本人』新潮社)▼今ニュースになるような陰惨な事件や犯罪は昔の人が書き残した物の中に満載。それを読めば今の方がましと知らされる。閉塞(そく)状況は、人を甘美な思い出へと誘いやすい。そんな時にこそ、逆にもっと前を向きたい。
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