2016年11月16日水曜日

【研究室訪問もはじめました】日大生産工学部建築工学科岩田研究室におじゃましました

 ◇震災避難所改善プロを展開◇

 日本大学生産工学部建築工学科で建築設計を教える岩田伸一郎准教授の研究室は、快適性やプライバシーの確保が難しい中で被災者が暮らす状況を目にし、「震災避難所改善プロジェクト」を始動した。

 収納可能な段ボール製のパーティション、古着を素材にした座いす、塩ビ管をフレームにした就寝用テントなど、身近な材料で簡単に作ることができる備品を発想し、今後も起こり得る大規模災害の際に役立ててもらおうとホームページで発信している。

 岩田准教授は、震災避難所改善プロジェクトの立ち上げ経緯を「熊本地震が発生したのは、ちょうど新学期を迎え3年生のゼミが始まり、卒業研究や修士研究の課題を考える時期だった。メディアが繰り返し映し出す窮屈な避難生活の様子に、現地に駆け付けることはできないけれど、建築を勉強している自分たちに何かできることはないか、アイデアを発信するのなら時間、場所の制約も受けずに可能ではないかと考えた」と説明する。

 震災後間もなく、3年生から大学院生まで全ゼミ生を集めてアイデアを出し合い、実現可能性を検討。絞り込んだのが「段ボールのパーティション」「古着の座いす」「塩ビ管のマルチフレーム・システム」の三つの案だった。

 「自分たちが現地に行って制作しなくてはならないアイデアであるとかえって迷惑になりかねない。そこで、被災者らが自らの手で、現地でも入手できる材料を使って簡単に制作できることに重点を置き、制作マニュアルという形として提案することにした」

 「段ボールのパーティション」は、支援物資の空き箱を使い、一人でも手軽に組み立てられる収納や風通しに優れた間仕切り。同じ大きさの段ボール箱4箱をガムテープで張り合わせたユニットを、開口面が逆になるよう交互に積み重ねる。両サイドのパーティションの間に園芸用支柱やもの干しざおなどを渡してシーツを掛ければ個人ブースの完成。底部には適度な隙間があり、風の通り道となって施設内にこもった熱気を緩和する。隙間を設けて積むこともできるため、仕切り具合の調整も容易だ。

 段ボール箱をシンプルに積み上げただけのパーティションは、水平軸力方向の耐力が不十分で余震でも簡単に崩れる恐れがあるが、斜め積みの場合は軸力方向の揺れを抑制し、崩れにくい。生活必需品などの収納棚となる開口部分に、段ボールの板を対角線状に差し込めば、さらに収納性と安定性が向上する。避難所からの退去時には荷物を簡単に運び出すことができ、引越し先では簡単に組み立て直して仮設家具として継続利用できることも考慮されている。

 「試作品は、避難所に飲料水のペットボトルがたくさん届けられることを踏まえ、ペットボトル用サイズの段ボール箱で制作した。支援物資を送ってもらう段ボールのサイズを指定すれば、材料となる同サイズのダンボール箱は簡単に集めることができる」と岩田准教授は提言する。

 「古着の座いす」は、段ボールを芯材に座面と背面にかぶせた服の腕同士を結んだだけの簡易な構成。袖の結び具合で座面の角度を調整できる。服の組み合わせによりデザインパターンも自在だ。

 「避難所にはたくさんの古着が送られてくるが、ほとんどが有効利用されないまま処分されていると聞いている。座いすへの適用は、避難所の床の硬さや冷たさの問題を改善して、善意で送られてきた古着も無駄にしない一石二鳥のアイデア。服の腕を結んでいるだけなので、再度古着として再利用することもできる」

 「塩ビ管のマルチフレーム・システム」は、3本のパイプにロープを通して三角形につないだユニットをねじって接続するだけの構造。形を自由に変えられ、布を掛ければ照明が遮光され睡眠用のテントとなるほか、板を載せてテーブルの脚としても活用できる。簡単にユニットに分解できるので、狭い避難所でも収納の場所を取らない。

 岩田准教授は「東日本大震災の時も熊本地震の時も離れているがゆえにすぐに具体的な行動を取ることができず歯がゆい思いをした。今後もどこかで大きな地震が起きれば被災者は避難所生活を送らざるを得ない状況が生まれる。その時に役立てることができように新しいアイデアを追加し、誰もが自由に利用できる公共コンテンツとしてストックしていきたい。研究室や大学の枠を超えてこの試みへの参加者が広がってくれるとうれしい」と呼び掛けている。

 このほど一連のアイデアの詳細を研究室のホームページに掲載。制作方法もPDFで公開している。制作動画はユーチューブにもアップする予定だ。

 (いわた・しんいちろう)1971年愛知県生まれ。1996年京都大学工学部建築学科卒業、1998年京都大学大学院工学研究科修了、1998年~1999年鹿島設計部勤務、1999年京都大学助手、2003年博士(工学)、2004年日本大学専任講師、2009年同准教授


 《日本大学生産工学部建築工学科 岩田研究室》

 所在地=:千葉県習志野市泉町1の2の1
 2016年度メンバー=修士2年5人、修士1年4人、学部4年6人、学部3年ゼミ生11人

0 comments :

コメントを投稿