◇現場で起こるすべてに理由が◇
大学の建築学科を受験したのは、現場監督になりたかったからです。東京・渋谷に住んでいた時も、そこから移り住んだ神戸でも家の前に建築工事の現場があり、その毎日変わっていく現場の様子を見ているうちに建築に興味を持つようになっていました。
「現場で起こることのすべてには理由がある」。入社して最初に配属された建築工事現場で所長から言われた言葉です。新人は現場のことを何も分からないのだから、目の前のやっていることを普通に覚えるのではなく、なぜそれをするのか、理由を考える。それをつなげていけば、何をしなくてはいけないかが分かってくるという教えでした。
学生時代にあまり勉強していなかった自分が会社で本当にやっていけるかと不安だったのですが、この言葉を聞いて「一から勉強すればいいんだ」と、その気にさせていただきました。後に社歴を重ねていく中で、私の後輩たちにも同じようなことを言ってきたつもりです。
バブル経済の頃は、現場で職人さんをなかなか集められずに苦労したものです。人手が足りないために工程通りに進まず、それこそほとんど休みもなく働いていました。世の中がバブル経済に沸いている実感などなく、現場では仕事ばかりが増えて「なぜここまでしなくてはいけないのか」と思っていました。
この時期、一緒に苦労した協力会社の方々とは仲良くさせていただきました。その後も協力してくれる仲間が増えたのはありがたかったのですが、当時はとにかく忙しく、先のことまで考える余裕はありませんでした。
1990年代に入り、初めてJV工事に構成会社の一員として携わりました。大規模な建築工事であり、それまで担当してきた現場とは違い、それぞれの役割分担が明確で、建築技術者としての仕事だけに注力できる環境でした。「こうした現場もあるんだ」と驚き、技術的なことも含めて大変に刺激を受けた現場になりました。
現場で職員が諦めたらその時点で終わってしまう-。これも以前に上司から学んだことです。例えば、もしかしたら間に合わないかもしれないと思ったとしても、「お前は『間に合わない』とは言うな」と教えられました。
そうした上司の方々から吸収させてもらったことは多く、私も会社では「『できない』と言うのではなく、『できる』方法を考えよう」とよく話しています。できない理由をいくら議論しても時間の無駄であり、どうやったらできるかを考えることが大切です。どうしてもできないことはあります。でも、どうにかしようとしなければ、何も前には進みません。
(しらいし・あきら)1983年関西大学工学部卒、西松建設入社。2004年関西支店京都出張所長、09年同支店営業部長、13年本社建築設計部長、17年執行役員建築事業本部副本部長兼建築設計部長。兵庫県出身、57歳。
初めて携わったJV工事で大きな刺激を受けた (後列左端が本人) |
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