1990年9月に土木学会が発刊した『AIで描く土木の未来~土木AI進化論』。第2次AIブームの中で土木分野が手を付け始めた各種のAI技術の紹介を通して、生産、品質、安全の管理や働き方が大きく変わる建設業の未来の姿を描く。AI研究の成果を建設に応用する社会的意義を示す同書の発刊から27年。建設業はどう変わり、これからどう変わっていくのか-。
□ソフト性能が飛躍的に向上□
1983~2007年の土木学会で発表された学術論文の中からAI関連を抽出すると、その大半は専門家や熟練技術者が持つ知識をコンピューターに取り込む「エキスパートシステム」が占める。
同書の編集に三井建設(現三井住友建設)の社員として関わった高田知典氏(高田技術経営コンサルタント代表)は「当時のエキスパートシステムは知識処理が『もしaならばb(if a then b)』の形で表現する簡単なもので、その形式のソフトしかなく、データとネットワークもなかった」と振り返る。
最も変わったのは「ビッグデータの時代が来たこと」と指摘する。3次元(3D)のデータが手に入るようになったことに加え、今はハードと、ディープラーニングなどAI機能を高めるソフトの性能が格段に上がった。少子高齢化の時代を見据え、「国がインフラをつくる役割の一端をAIなどのシステムに持たせる意図を持ってデータ取得の取り組みを進めてきた」と国の下支えも第3次ブームを起こした要因とみている。
減少する技術者の業務を補う点からもAI活用が進んでいる。高田氏は「当時も最後は人間が判断するが、業務を軽減できるところはAIに代替させるという発想だった」と話す。
□企画・計画や防災活用に課題も□
懸念するのは計画段階での利用が少ないことだ。同書には「AIは企画、計画段階に特に効果的」という表現がある。高田氏も「環境関連の法規などは地方自治体の条例を含め膨大な数があり、計画段階への利用はやりやすかった。エキスパートシステムの論文も最初は計画、環境シミュレーションの分野の数が多かった」と振り返る。
ただ、「工程図や工程表を書くのに1週間程度かかっていたものが30分程度でできるようになると、皆の意識が変わり、情報化施工の取り組みも加速するとオペレーターのノウハウを入れようという動きが出てきた」と生産性向上の現場意識の高まりが施工面の利用に開発が集中した理由とみる。
土木学会は本年度、会長特別委員会を発足させ、維持管理・更新分野でのAI利用のガイドラインづくりに入る。各種センサーで取得したビッグデータの活用などに関するガイドラインや共通プラットフォームをつくるという。今は活用できるデータが共通で市販のAIソフトも豊富。他社との差別化を図りにくい。高田氏は「標準化と差別化の話をどう切り分けるかがポイント」と指針整備の課題を説明する。
□他分野と連携した研究の視点重要□
AI普及への課題はまだある。「技術が飛躍的に伸びるのはゼネコンが元気な時。また冬の時代が来るかもしれない。もう一つはデータを集め切れなかった場合と情報を共有化・公開できなかった場合だ」。
ただ、研究開発の継続やデータの共有化・公開は、災害分野でAI研究が本格化すれば予算も付きやすく、進展するとみる。そのために「社会インフラをベースに多様な分野が横断的にAIを研究できれば社会のためになり、国際競争力も増す技術が実現する。AIの防災・減災への活用はこれからの世代が考えていかなくてはいけない」と主張する。
もう一つの課題は人口減少社会でのAI活用の視点だ。
高田氏は「都市高齢者の問題を考える時には、心地よい安全な歩道とは何かを考えないといけない。人間工学的な工夫を求められるが、ものを作ることを主体とする土木が一番弱いところで、曖昧な表現を処理するファジー理論の研究をやっていなかったところがネックになる」と指摘する。
バリアフリー関連データは建築分野が多く保有する。AI研究での建築との融合のきっかけとして災害や高齢者の分野を挙げる。高田氏は「土木も早めにそういう方向に動けばもっとインフラ整備を安くできる。人間がどう動くかをAIを使って分析すれば最低限のもので最大の効果を生み出し、日本は本当に素晴らしい国になる」とみている。
□ソフト性能が飛躍的に向上□
1983~2007年の土木学会で発表された学術論文の中からAI関連を抽出すると、その大半は専門家や熟練技術者が持つ知識をコンピューターに取り込む「エキスパートシステム」が占める。
同書の編集に三井建設(現三井住友建設)の社員として関わった高田知典氏(高田技術経営コンサルタント代表)は「当時のエキスパートシステムは知識処理が『もしaならばb(if a then b)』の形で表現する簡単なもので、その形式のソフトしかなく、データとネットワークもなかった」と振り返る。
最も変わったのは「ビッグデータの時代が来たこと」と指摘する。3次元(3D)のデータが手に入るようになったことに加え、今はハードと、ディープラーニングなどAI機能を高めるソフトの性能が格段に上がった。少子高齢化の時代を見据え、「国がインフラをつくる役割の一端をAIなどのシステムに持たせる意図を持ってデータ取得の取り組みを進めてきた」と国の下支えも第3次ブームを起こした要因とみている。
減少する技術者の業務を補う点からもAI活用が進んでいる。高田氏は「当時も最後は人間が判断するが、業務を軽減できるところはAIに代替させるという発想だった」と話す。
□企画・計画や防災活用に課題も□
懸念するのは計画段階での利用が少ないことだ。同書には「AIは企画、計画段階に特に効果的」という表現がある。高田氏も「環境関連の法規などは地方自治体の条例を含め膨大な数があり、計画段階への利用はやりやすかった。エキスパートシステムの論文も最初は計画、環境シミュレーションの分野の数が多かった」と振り返る。
ただ、「工程図や工程表を書くのに1週間程度かかっていたものが30分程度でできるようになると、皆の意識が変わり、情報化施工の取り組みも加速するとオペレーターのノウハウを入れようという動きが出てきた」と生産性向上の現場意識の高まりが施工面の利用に開発が集中した理由とみる。
土木学会は本年度、会長特別委員会を発足させ、維持管理・更新分野でのAI利用のガイドラインづくりに入る。各種センサーで取得したビッグデータの活用などに関するガイドラインや共通プラットフォームをつくるという。今は活用できるデータが共通で市販のAIソフトも豊富。他社との差別化を図りにくい。高田氏は「標準化と差別化の話をどう切り分けるかがポイント」と指針整備の課題を説明する。
□他分野と連携した研究の視点重要□
AI普及への課題はまだある。「技術が飛躍的に伸びるのはゼネコンが元気な時。また冬の時代が来るかもしれない。もう一つはデータを集め切れなかった場合と情報を共有化・公開できなかった場合だ」。
ただ、研究開発の継続やデータの共有化・公開は、災害分野でAI研究が本格化すれば予算も付きやすく、進展するとみる。そのために「社会インフラをベースに多様な分野が横断的にAIを研究できれば社会のためになり、国際競争力も増す技術が実現する。AIの防災・減災への活用はこれからの世代が考えていかなくてはいけない」と主張する。
もう一つの課題は人口減少社会でのAI活用の視点だ。
高田氏は「都市高齢者の問題を考える時には、心地よい安全な歩道とは何かを考えないといけない。人間工学的な工夫を求められるが、ものを作ることを主体とする土木が一番弱いところで、曖昧な表現を処理するファジー理論の研究をやっていなかったところがネックになる」と指摘する。
バリアフリー関連データは建築分野が多く保有する。AI研究での建築との融合のきっかけとして災害や高齢者の分野を挙げる。高田氏は「土木も早めにそういう方向に動けばもっとインフラ整備を安くできる。人間がどう動くかをAIを使って分析すれば最低限のもので最大の効果を生み出し、日本は本当に素晴らしい国になる」とみている。
基礎知識から実例まで解説
土木学会土木情報システム委員会の「人工知能小委員会」が土木に携わる若手技術者らにAIの内容を知ってもらうという趣旨で編集した入門書=写真は表紙。90年9月に土木学会から刊行された。
3章立てで、221ページのポケットサイズ。ゼネコンが第2次AIブームで企画から計画、設計、施工、維持管理までのさまざまな分野で開発を進めたAIを応用したシステムを中心に紹介し、AIの活用で将来の建設分野が「快適で、格好良く、給料の高い3K」を実現するとうたった。
序章に掲載した「2010年 木田家の金曜日」は、土木エンジニアの木田氏を主役にAIや各種のICTが駆使された未来の建設業の姿を物語風に描く。2017年現在、実現または実現に動いているリニアモーターカーや車の自動運行システム、観測や施工のためのロボット、1000メートル級の超高層ビルなどの多数の技術やプロジェクトが登場する。
第1章はAIとは何かを分かりやすく解説した「AIの基礎知識」、第2章はゼネコンが開発した専門家や熟練者が持つ知識をコンピューターに取り込んだ「エキスパートシステム」の紹介と作り方、第3章は高度なAI領域に進むために必要な参考文献類、ハードとソフトを掲載した。
今では当たり前となっている曖昧な表現を処理するファジー理論、学習によって知識を蓄積するニューロの仕組みや、エキスパートシステムとして「土地利用コンサルテーション」「都市トンネル掘削工法選定」「軟弱地盤対応基礎工法選択」「山留め施工支援」「コンクリートひび割れ原因推論」のシステムを紹介。巻末には用語集も付けている。