現場には多く人が集まる。広く見通して仕事ができる人こそプロだと思う |
絶対に職長になってやる-。この仕事を初めて2日目、そう決意した。山中公太さん(仮名)はベテランの鉄筋工となった今も、当時の気持ちを覚えている。
体を使った仕事をやりたいと思い、高校卒業後、鉄筋工事の会社に入った。右も左も分からないまま現場に向かった。「先輩から教わりながら仕事を覚えていけばいい」。そう言われていたが、実際は違った。嫌がらせのように、何をやってもけなされる。仕事ができない自分を笑い物にするような雰囲気があった。
「今に見ていろ。数年後には上に立って、絶対にお前たちを使ってやる」。理不尽な仕打ちを受けたことが、余計に決心を固くした。
鉄筋工の仕事は、思っていた以上に厳しいものだった。夏は暑いし、雪の降る日には作業をする手がかじかむ。負けてたまるか-。その一心で日々の仕事に打ち込んだ。だから、職長になった時は、本当にうれしかった。「やっと職長ができる。自分に任せてもらえた」。そんな思いに包まれた。
職長になると、それまでとは違った世界が広がっていた。今までは自分の作業の質を高めていればよかったが、職長は、現場全体が円滑に回るよう、他職種との連携もしっかりと考えなければならない。そこをクリアしなければ、鉄筋組み立てもうまくいかない。
職長になった頃はまだ若かった。他職種のベテラン職長から甘く見られていると感じることもあった。そこでまた闘志が沸々と湧いてきた。
今の作業が問題なくできるのは当然のこと、もっと先の作業まで見越していかに動けるかが勝負だと思った。「現場全体のことを理解しなければ、やっぱりなめられる」。ベテラン職長はどこに目を光らせて仕事をしているのか。どうやったら、自分たちも他職種の人たちも、効率よく仕事が流れていくのか。分からないことがあれば、誰彼構わず聞いて回った。
そうするうちに、だんだんと認めてもらえるようになった。若さが問題だったのではなかった。仕事の質が問われていたのだ。それがプロだと、後になって分かった。
新人が入ってくると最初は厳しく接するようにしている。「新人のために仕事しているわけではない。しっかりとした品質の物を造るために自分は働いている」。そうした思いが強い。「最初に優しくすると、それが当たり前になってだらだらされる。それで辞めたらそこまで。厳しくしないと本人のためにもならない」。そう割り切っている。
難しいと思う場面もある。最近の若手は、厳しく言われたら「もう駄目だ」とへこんでしまう。「この仕事は、やればやるほど自分に返ってくる。すべては自分次第なのに…」。若手には、良い意味での負けん気を持ってほしいと思っている。
一人前になったら、対等な職人として扱われる。そこまで頑張れば先は見えてくる。そうやって自分は踏ん張ってきた。これからもその心意気で続けていく。
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