2017年7月13日木曜日

【新技術を積極活用】国交省、ダム再生ビジョン策定

国交省が再開発工事を実施中の鶴田ダム(鹿児島県さつま町)
国土交通省が、既設ダムの再開発工事を加速する新たな施策を列挙した「ダム再生ビジョン」を策定した。水害の頻発に対応。治水機能を効率的に高められる改良手法や施工技術の導入を推進し、既設ダムを有効活用するのが狙いだ。ダム管理者と建設業団体による着工前段階での意見交換や、維持管理も含めた全工程へのCIM(コンストラクション・インフォメーション・モデリング)の導入を進める。建設業界にとっては、新たな技術開発や市場拡大のきっかけになりそうだ。

 ◇業界意見反映、新技術を積極活用◇

 ビジョンは6月27日に策定。石井啓一国交相は同日の閣議後の記者会見で、「ビジョンで示した方策を具現化し、頻発する洪水や渇水の被害の軽減に積極的に取り組んでいきたい」と述べた。

 ダム再生は、ストックを有効活用する方策として、運転を止めずに治水機能の向上や長寿命化を実現する比較的簡易な改良工事や、天候の変化に柔軟に対応して貯水容量を調節する取り組みを示す。代表的な改良手法には、堤体のかさ上げと放流設備の増強が位置付けられる。

 建設後に水没する用地の買収手続きなどを含めると事業期間が数十年に及ぶダムの新設に比べると、既設ダムの再生は、建設費や事業期間を大幅に抑えられるメリットがある。1事業当たりの建設費は計画の内容によってまちまちだが、事業期間は長くても10年程度にとどまるケースが多い。さらに、「ダムの堤体は適正に施工や維持管理を行えば、半永久的に健全な状態を保つことが期待できる」(水管理・国土保全局治水課)という。

 国交省がこのタイミングでダム再生ビジョンを策定した背景には、気候変動の影響で豪雨災害や渇水の発生リスクが高まっている状況がある。人口の減少でダム事業に使える予算も減る中、ダム再生をより効率的かつ着実に進められるようにする施策の充実が必要だと判断した。

 ダム再生ビジョンの対象施設は、治水機能を備える国交省所管の既設ダム計556カ所。うち99カ所を国交省、23カ所を水資源機構、434カ所を都道府県がそれぞれ管理している。今後、国交省と水機構はビジョンに基づく施策を着実に実行し、都道府県には参考資料としてビジョンを活用してもらう。

 ◇ICTで効率化・高度化◇

 ビジョンでは、改良工事で施工を効率化できる手法や新技術の採用を重視する方針を打ち出した。具体策として新たに始めるのが、ダム管理者と民間の関係団体による計画立案や調査設計段階での意見交換だ。

 関係団体の業種はビジョンに明記していないが、ダム工事を手掛ける建設業を念頭に置いている。ダム管理者にとっては最適な改良手法や施工技術の採用に役立つとみる一方、建設業団体にとっても会員各社が持つ最適な施工技術の提案や品質確保・向上などに役立つとみる。

 着工前の意見交換の実施を決めたのは、ビジョンの策定過程で日本建設業連合会(日建連)や日本ダム協会などの10以上の建設関係団体に行った意見聴取で、その有効性が明らかになったためだ。併せてICT(情報通信技術)の全面活用を柱とする建設現場の生産性向上策i-Constructionも推進する。

 具体的な手法はビジョンには明記していないが、ダム工事ではあまり実績がないCIMの導入を念頭に、計画立案から調査設計、施工、維持管理までの各工程で得られた情報を関係者間で共有し、事業の効率化と高度化につなげる。

 ◇18年度から順次事業化◇

 維持管理の効率化・高度化に特化した施策も推進。新たに施工段階で堤体の変位状況を自動計測・送信できる機器の設置を標準化する。水中用ロボットや無人航空機(UAV)を使う点検も推進する。

 さらに、ダムの再開発を、必要に応じ流下能力が不足している下流河川の改修と一体的に進める。今後はできるだけ早くダム再生の留意点をまとめた「ダム再開発ガイドライン」を作る。

 同省では現在、北海道開発局を含む各地方整備局が中心となり、同省管理ダムの中で再開発を行うダムを特定するための調査を進めている。水機構や都道府県が管理するダムも含め、18年度以降、順次事業化していく方針だ。

 □80年代から各地で/20ダムで進行中□

 国土交通省によると、「ダム再生」としての施設改良工事は1980年代半ばごろ、全国各地で本格的に始まった。現在までに同省や都道府県が管理する29のダムで実績があり、20のダムで進行中だ。

 現時点で国内最大級の事業は国交省が鹿児島県さつま町で進めている鶴田ダムの再開発工事。06年7月に鹿児島県北部で起きた記録的な豪雨による災害を受け、3カ月後の同10月に、洪水調節容量を従来の約1.3倍にまで増やす事業に着手した。本年度の完成を予定しており、既に放流設備などの運転を一部始めている。鶴田ダムの再開発工事では、放流設備の仮締め切り工で貯水池底部での潜水作業を軽減する新技術が採用されている。

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