2017年7月11日火曜日

【ERI学生デザインコンペ審査員インタビュー・2】安原幹氏(建築家、東京理科大学准教授)に聞く「コンペの特徴と応募作品への期待」


 ERIホールディングスが主催する設計競技「ERI学生デザインコンペ」。2017年度の概要が発表され、今年のテーマが「RULE(ルール)/SPACE(スペース)/HARMONIZE(ハーモナイズ)」に決まりました。選考委員を務める7人のリレーインタビュー、2回目は建築家で東京理科大准教授の安原幹氏に聞いたコンペの特徴や学生へのメッセージをお届けします。

 --ERI学生デザインコンペの特徴は。

 「テーマに『ルール』という言葉が含まれることが最大の特徴だと思います。建築デザインのコンペですから、空間的な仕掛けから課題をどう解決するかが問われる中で、ソフト的なルールをどう絡めていくかというのがおもしろい点です。昨年の審査では、学生のルールの解釈を見比べるのが興味深かったです」

 「三つのキーワードが並んだ昨年のテーマ、ルール、スペース、シェアラブルから、今年は前二つが残り、最後が『ハーモナイズ』に変わりました。シェアはとても現代的な現象であり、シェアハウス、カーシェア、シェアオフィスといったサービスがすでに存在するように、建築が現実を追いかけていくような状況であるため具体的な形が描きやすいテーマでした。対して今年のハーモナイズはやや抽象的な分、解釈の幅が広く、どういう提案が出てくるか楽しみにしています」

 --今年の応募作品に期待していることは。

 「昨年はまちと建築、あるいは建築と建築の間の境界のつくり方に着目した提案が多かったですね。建築法規でいうところの集団規定を扱った作品です。それらの作品で扱われているテーマは非常に現代的であると同時に、ルールの破り方、あるいは拡大解釈の仕方がどの提案も似通っているという印象も持ちました」

 「そのような中で数は少ないながら、独自のルールを単体の建築に埋め込んでオーバードライブさせた独創的な作品もあり、非常に新鮮でした。ルールを破ること自体に意味があるのではなく、その結果どのような新しい空間や関係性が導き出されるかが重要です。そのための思考実験と思ってコンペに取り組んでみるとよいかもしれません」

 「昨年は地方都市で建築を学んでいる学生からの応募も多かったですね。われわれ審査員が行ったことも見たこともない場所を敷地に設定し、作品からその場所の魅力が伝わってくるものが何点かあり目を引きました。身近な課題や身近な場所を、与えられたテーマを追い風にしてどう掘り下げるかがポイントとなるでしょう」

 「アイデアコンペに限っていうと、審査員全員に評価されることよりも、誰か一人の心に深々と刺さることの方が重要かもしれません。特にこのコンペは審査員の数が多く、テーマの間口も広い分、勝負の仕方の選択肢も幅広い。切り口を明快にして、うまくプレゼンすれば経験の少ない学部生にもチャンスは大いにあります」

 --学生はコンペでどんなことを学べますか。

 「研究室の学生にはコンペに積極的にチャレンジするよう勧めています。デザインワークの経験を十分持っている大学院生の中には、自分なりのテーマをある程度見つけている人もいます。コンペはそうしたアイデアの種が持つ可能性を世に問い、学外の審査員の批評を受けられる貴重な機会です。将来仕事として設計をする人には、実施コンペやプロポーザルで公開プレゼンテーションに臨む機会も訪れるでしょう」

 「最近はアイデアコンペでも公開審査が行われるケースが多いので、学生時代からプレゼンの技術を磨けるという点でも大きな意味があります。公開審査の場では、審査員の厳しいコメントは助け舟であることも多く、それに対してどう答えるかによって評価はガラッと変わります。自分たちの組み上げたストーリーに拘泥するのではなく、質問者の問いかけをよく聞いて、臨機応変に対応することが重要だと思います」

 「チームを組んでコンペに参加する学生も多くいます。私も事務所(SALHAUS)でパートナーと協働で仕事をしていますが、それぞれがイーブンの立場でさっくばらんに議論することの大切さを常日頃から感じています。自分で『これがいい』と思ったアイデアを、パートナーとの対話の中で「揉む」ことで確信を持って提案できるだけの強度を持った案に鍛え上げる、そのプロセスがとても大事です。冴えたアイデアが出そうなメンバーを集めてきたり、議論が活性化しやすい場をセットしたりすることも、デザインの技術の一つだと思います」

 --建築家を目指す学生にメッセージをお願いします。

 「まずは建築が好きでたまらない、という人になってほしいですね。私が建築の勉強を始めて四半世紀になりますが、一生やるに値する仕事だと確信しています」

 「家業が設計事務所だったので比較的早い段階から建築には関心を持っていましたが、最初から建築家としてやっていけるという確信があったわけではもちろんありません。設計の勉強を始めてみたら面白かったので、単純に自分がやりたいから今も続けています」

 「大学で指導していると、自分は他の人に比べてセンスがないからと早々に設計の道をあきらめてしまう学生が思いの外多く、残念に思っています。近年ではコンピュータによるデザインが一般的になったり、リノベーションやユーザー参加などの考え方が普及したりと、デザインの攻め口はかつてより確実に広がっています。最初からデザインが達者な人だけが建築家になれるわけではないのです。まずは『やりたい』という気持ちを持ち続けられるかどうかが一番重要なのではないでしょうか」。

リレーインタビューの1回目(今村雅樹日本大学教授)はこちらから

 【主  催】ERIホールディングス
 【協  賛】日本ERI、ERIソリューション、ERIアカデミー、
       東京建築検査機構、イーピーエーシステム

 【特別協賛】日刊建設工業新聞社

 【応募受付】2017年9月1~20日

 【一次選考】2017年10月上旬

 【最終選考】2017年11月11日(公開審査)

 【賞  金】最優秀作品賞(1点)50万円、優秀作品賞(1点)25万円
       佳作(数点)5万円、特別賞

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