◇東北整備局らと連携協定結ぶ◇
土木系潜水士の人材育成と確保を目的に、官民を挙げた取り組みが始まった。毎年潜水士を輩出している岩手県立種市高等学校の海洋開発科の生徒を確保するため、国土交通省東北地方整備局など関係6者が「潜水士などの担い手確保・育成に係わる連携・協力協定」を締結した。将来の潜水士を育成する同校を訪ねた。
種市高校は岩手県北部の洋野町にある普通科と海洋開発科を持つ県立高校。現在は1学年普通科2クラス、海洋開発科1クラスの3クラスで編成され、レスリング部など部活動も盛んな高校として知られている。
このうち、海洋開発科は日本で唯一潜水士と土木の基礎を学べる課程で、土木系学科としては珍しい溶接など機械系の実習も行われている。潜水士をはじめ、測量士補、2級土木施工管理技士などの資格を取得でき、卒業生たちは海洋土木技術者として国内外で活躍している。
海洋開発科の生徒数は、1年生32人、2年生34人、3年生31人の総勢97人。ほとんどが男子生徒で女子生徒は3学年で5人と少ない。生徒数が一時、20人を割り込む時期もあったが「東日本大震災のあとから、日ごろの広報活動やNHKの朝ドラの効果もあって、ここ数年は入学者が増えている」と吹切(ふっきり)重則海洋開発科主任は話す。
岩手県など北東北は人口が減少傾向にあり、地元の学生だけでは入学者を確保できない。このため、南部潜りのPRも兼ねて北海道の中学校をはじめ、神奈川県横須賀市まで出かけたこともあったという。こうした教員たちの熱意と、潜水関係の仕事が震災以降増加している影響もあり、現在は予定入学者を確保できているという。
「団体の寄付金で学生寮の整備に着手するが、これまで学校に宿泊施設がないということで入学を断念した生徒もいたので、寮を完備できることは大変にありがたい」(吹切主任)と一日も早い寮の完成を待ちわびる。
生徒の卒業後の進路をみると手放しで喜べない状況だ。毎年30人くらいの卒業生を出すが、このうち潜水士になるのは3分の1程度だという。
半数以上は別の産業に流出してしまう。「向き不向きもあるし、危険と隣り合わせの職業でもあり、明確な目標を持たないと、今の生徒はなかなか潜水士に進まない」と吹切主任は説明する。こうした意味でも、今回の協定による教育面や就職活動の支援に期待を寄せている。
種市高校は生徒の3割がレスリング部に所属するという変わった側面を持つ。国体や県大会の優勝実績を持つ強豪校で、濱道秀人監督のもと37人の部員が汗を流してる。
「他の強豪校とは違い、スカウトは一切しません。もともと足腰の強い子が多いので、試合に勝てるのでしょう」と濱道監督は強さの秘訣(ひけつ)を明かす。〝南部ダイバー〟として体力づくりは重要で、こうした日ごろの鍛錬が力強い潜水士の育成に一役を買っている。
潜水士である父の背中を幼いころから見ており、跡を継ぎたいと思ってこの学科に入りました。
卒業後は水産系大学への進学を考えています。海洋生物や海の生態系についてはもちろん、東日本大震災で悪化してしまった海の環境保全について学ぼうと思っています。
海産物をもらうだけでなく、生き物が住みやすい環境をつくり、増やしていくことで、海に対して多角的な面から貢献していきます。(磯崎元晶さん)
◇看護系学校に進学、部活で鍛えた成果生かす◇
兄がこの学校に通っていたのと、兄の同級生の女子生徒が新聞などに出ていて、自分も潜水士に興味を持ち、海洋課を選択しました。男子生徒と体力面で大きな差があっても区別なく同じ内容で潜水実習を行うのでとても苦労しました。
部活動を通して体力造りや精神面を鍛えることによって、徐々に差を埋めることができました。卒業後は看護系の学校へ進学することを考えています。
潜水士にはなりませんが、この3年間で学んだこと、そして鍛え上げられたメンタルとフィジカルはこれからの社会生活で役に立つと思います。(真井翔子さん)
◇世界で活躍するエリートダイバーに◇
幼いころから潜水士にあこがれており、海洋開発科があるこの学校に入学しました。
潜水士を主人公にしたドラマを見て、自分もこうなりたい思っていましたが、授業で学んでいくうちに、建物を造ることにも興味を持ち、潜水工事の仕事をしていきたいと感じるようになっていきました。
卒業後は潜水工事会社に就職します。将来は世界で活躍するエリートダイバーとなり、各地でさまざまな工事に携わって、社会に貢献していきたいと考えています。(新山洸大さん)
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