2016年11月8日火曜日

【成長するスタジアム】プロジェクト担当者に聞く〝吹田〟のこれまでと今後

過去の形式にとらわれない手法はスポーツ施設整備のあり方に一石を投じた
(写真提供:ガンバ大阪)
サッカー専用の大規模スタジアムとして、今年3月に産声を上げた「吹田市立サッカースタジアム」(大阪府吹田市)。建設資金を寄付と公的助成金で賄い、自治体に施設を寄付した上で指定管理者制度を活用し、プロスポーツクラブが自主運営するスキームは、多方面に大きなインパクトを与えた。スポーツ施設の整備と維持管理のあり方で新たな道筋を示した吹田スタジアムはどのようにしてできたのか。プロジェクト関係者に完成までの道程と今後の展開について取材した。


◇Jクラブとゼネコンが強力タッグ◇

 吹田スタジアムは140・8億円の資金と22カ月(13年12月~15年9月)の工期で万博記念公園内に整備された4万人収容のサッカー専用スタジアム。建設費の75%に当たる105・7億円が法人(721社、99・5億円)と個人(3万4627人、6・2億円)の寄付金で賄われた。

 プロジェクトは設計・施工を竹中工務店、CM(コンストラクションマネジメント)を安井建築設計事務所が担当した。

 1席当たりの建設費が30万円台と、国内にある同規模のスタジアムの半分以下という驚異的なローコストに目を奪われがちだが、一般的なスタジアムと吹田スタジアムでは、プロジェクトの進め方に決定的な違いがある。それは設計・施工と資金調達が並行して行われ、契約条件の中に「工事停止要項が付けられていた」という点だ。

 設計と施工が一体となり、資金確保の状況をにらみながらプロジェクトを前進させた。工事の陣頭指揮を執った竹中工務店大阪本店の中野達男総括作業所長は「究極の選択をしながらものづくりを進めたのが吹田スタジアムだ」と断言。「お客さまに寄り添いながらいかに良い作品を作り上げるのか、設計と施工が連携しガンバ大阪と共に徹底的に施設のあり方を詰めた」と当時を振り返る。

 設計部門で旗振り役を務めた同社大阪本店の大平滋彦設計第4部長も「吹田スタジアムは設計ありきのプロジェクトではなかった。デザイン性を維持しながら、1平方メートル単位で延べ床面積を減らすなど、コストを削る努力をした」と説明。「座席を減らす、屋根を架けない、映像装置をなくすなどさまざまな事態を想定し、設計・施工一体でものづくりを進めた」とも話す。

 内外装ともに仕上げ材を極限まで減らし躯体構造や設備を隠さないというコストダウンの工夫は、結果的に「将来にわたって維持管理費を下げる効果もある」としている。

 徹底したコストダウンの一方で、省人化に対応する構造部材のPCa(プレキャスト)化、サポーターが強く望んでいたゴール裏ホーム側スタンドの「3層構造から2層構造への変更」など必要とされた部分には、折り合いを付けて費用を確保した。

着工から12カ月目に「翌年の工事に必要な金額を確保する見通しが付いていなかった」(ガンバ大阪事業部スタジアム管理・運営課の前田将太氏)というほど、プロジェクトは綱渡り状態だった。

 ただ竹中工務店の中では「最後までお客様に寄り添い、誇りのある仕事を成し遂げる気持ちは変わらなかった」(中野総括所長)。ガンバ大阪が次々とタイトルを獲得し、プロジェクトの最終盤で寄付金が急増したことで資金確保にもめどが付き、15年9月に計画通り完成した。

 16年シーズンからスタジアムは本格稼働に入り、ガンバ大阪が指定管理者となり運営・維持管理を手掛け「自主運営が基本で利用料金により運営を行っている」(前田氏)。大規模修繕費も初年度5000万円、2年目以降1億5000万円をガンバ大阪が積み立て、将来に備えている。

 「吹田スタジアムの完成はクラブ収益にも大きなプラスをもたらしている。16年シーズンのサッカークラブとしての営業収入は50億円を超える見通しだ」と前田氏。ネーミングライツ(施設命名権)の導入、結婚式やイベントなどへの貸館などサッカー以外の事業展開を計画しているほか、試合開催時のスタジアム内サイネージ(広告・案内)も展開している。

吹田スタジアムは「成長する施設」と語る前田氏㊨と中野総括所長
サッカークラブとしてのガンバ大阪と、指定管理者としてのガンバ大阪。クラブ内には二つの組織が存在する。指定管理者としては、スタジアムでいかに収益を上げるかが最大の課題であり、前田氏は「施設のスペックを高めるため、今後も竹中工務店とは良い関係を維持したい」と話す。

 一方、中野総括所長は「このスタジアムには竹中工務店が持ち続けている棟梁の精神、DNAが詰まっている。引き渡して終わりではなく、これからも寄り添い続けていく」と語る。

 ガンバ大阪と竹中工務店が「成長する施設だ」と異口同音に表現する吹田スタジアム。スポーツ施設の整備をめぐり、全国でさまざまな動きが出ている中で、吹田スタジアムは過去の形式にとらわれない、大規模プロジェクトのあり方の一つを指し示している。

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