2016年11月7日月曜日

【中堅世代】それぞれの建設業・150

 ◇行動力で女性活躍の道開く◇

 ゼネコンで女性技術者として働く島田実希さん(仮名)は、会社からの特命事項である「女性活躍推進」に奔走する毎日だ。数年前に現在の人事部門に配属されたが、本来の職種は建築部門で、構造設計が専門。技術者として現場に関わりたい気持ちに変わりはないが、採用や職場環境の見直しなど今の仕事も自分には向いてると感じている。

 「就職活動中の学生さんと接する際、その人と一緒に働くことを想像し、その点では事務系社員よりも実感を持てる。自分の過去を振り返れば、学生の悩みもすぐ分かる。業界内の女子会などで築いたネットワークで自社と他社の違いも把握している。会社のプラス・マイナス両面を説明できるから、相手に信頼してもらえます」

 幼い頃、大工さんが自宅を改築する姿に憧れ、小学生で建築の世界を志した。地震が大の苦手。「壊れない家が欲しい」と思い続けるうちに、構造設計への関心が自然と強まった。

 現場に近い立場で働きたくて、設計事務所ではなくゼネコンへの就職を希望したが、2000年代初めの就職環境は超氷河期。今ほど女性技術者への理解もなく、会社説明会では「入れる職種はない」と言われ続けた。

 就活を始めて半年が過ぎ、ゼネコンの構造設計部門への就職を諦めかけていたところに、今の会社から採用試験の案内メールが届いた。同部門の新卒採用が長期間なかったことから、たまたま採用枠を設けたところに声が掛かった。

 念願の部署には入れたものの、会社人生は順風満帆ではなかった。バブル後の業績悪化に揺れる会社は先行きが見通せず、入社2年目で所属部署の人員は半減。周囲からも「この環境では頑張れないと思うなら転職を考えなさい」と判断を迫られた。

 会社に残る技術者の一人が自分でいいのか。悩んだ末、残るからには早く成長しなければと思い、必死になって勉強した。上司や先輩から手取り足取り教えてもらえない中、持ち前の行動力であちこち出向いて話を聞いて回り、一心不乱に仕事を覚えた。

 入社6年目。尊敬していた先輩と組み、中間層免震のマンションに携われるチャンスができた矢先、地方支店への異動を命じられた。免震構造を学んで設計者としてステップアップすると喜んでいたところでの転勤話。素直には受け入れ難かったが、生来の順応の良さを発揮。支店でも顔をすぐに覚えてもらった。「女性と一緒に働くのを嫌う大御所の現場所長もいたけれど、根っこは優しい頑固親父で、仕事はやりやすかった」。

 地方支店では当初3年の勤務予定だったが、先輩社員の退職などの影響で1年後には本社に戻った。じっくりと腰を落ち着けて一つの場所にとどまることができず、消化不良な気持ちもあるが、いろいろな部署とのつながりが広がることは、自分の今後にとってはプラスだとも考えている。

 「安全な建物を造り、社会に貢献したい」という志を抱いて入社しただけに、現在の人事部の業務は想定外だが、会社を少しでも働きやすくするために知恵を絞る。社会貢献に直結する建設会社で、その中から体質改善を図る取り組みは結果として社会のためになるとも感じる。

 同年代の社員が少ないのだから、将来は構造関連の部門で部長クラスにはなれるだろうと漠然と思っていた。女性活躍の推進に日々取り組む中で、他社の女性リーダーから「まだまだ若いんだから役員を目指しなさい」と声が掛かる。役職はともかく、建設業で働く女性たちに良い影響を与えられる人物になりたいという気持ちが高まっている。

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