2017年10月24日火曜日

【けんせつ夢のかたち】対談・森昌文氏(国交省技監)×山根公利氏(メカニックデザイナー)

 ◇アニメーションの世界から見た建設現場は…◇

 建設分野の生産性向上策「i-Construction」を推進している国土交通省の森昌文技監と、幅広い年代層から人気のアニメシリーズ『機動戦士ガンダム THE ORIGIN』などの作品を手掛けているメカニックデザイナーの山根公利氏に「魅力ある未来の建設現場」をテーマに対談してもらった。異色のマッチングになった対談では、人とロボットが協働する“近未来”の世界に話が展開していく。

 山根 私たちが仕事としているメカニックデザインというのは、アニメーション作品に登場するロボットや宇宙船、車などのメカニックをデザインするものです。『機動戦士ガンダム THE ORIGIN』では、漫画原作でデザインされたものをアニメーション用のコンピューターグラフィックス(CG)で描くためにアレンジしたり、新たなものを描いたりしています。大河原邦男さんがモビルスーツ(人型機動兵器)などのオリジナルデザインを手掛けられ、その中でもモビルワーカー(人型作業機械)は建設機械のイメージに近いので、私が今回の対談のお話を頂いたのだと思っています。

  いろいろな漫画に出てくる空想のイメージを形に仕上げていかれるのですね。子どもたちの夢やファンの思いを物にしてあげるというのは、極めてクリエーティブでないとできない仕事だと思います。

 山根 アニメのデザインにも、よりリアルさを求められるのが最近のはやりでもあります。私も現代的な兵器や建機などリアルなものをデザインに組み込み、説得力を増す方向性の仕事が多くなっています。子どもの頃はクレーン車をスケッチしたり、工事現場の近くまで行って建機を見たりしていました。

  小さい男の子というのは「働く車」が好きですよね。絵本やテレビなどで見る働く車は、パトカーや救急車、消防車以外はほとんどが建設現場で動いているものばかりです。子どもたちはそれを見たり、実際に街で見たりして、教わるわけではないのにどういった車が現場で動いているかを知っています。子どもの頃にアニメのロボットを見て操縦したい、あるいは機械を作ってみたいと思って大きくなった人も多いのではないでしょうか。

 山根 アニメを見て、例えば建設関係の仕事に就きたいと思ってもらえたら理想的ですね。建設業の活気に結び付くかどうかは分かりませんが、アニメで建設現場の格好良さを表現できたらいいと思っています。

  ぜひそうしていただきたいと期待します。現場で使われる機械というのは、実際に物を運んだり機械を操作したりして、ここが不自由で大変だったというのを分かった上で設計され、形になっていくものだと思います。そこにアニメにおけるメカニックデザインのプロの方々がマッチングし、新しいものが生まれていくことに期待は膨らみます。

 山根 そういうコラボは面白いですね。

  労働環境の厳しい分野は若い人に敬遠されてしまう傾向が出てきています。そういう意味では若者から人気のデザインの世界はうらやましくもあります。

 山根 私たちから見ると現場の建機はすごく格好良く、むしろそこに近づきたいというのが本音です。

  例えば、橋は荷重を支えるためにああいった形をしています。建機もコンパクトなフォルムの中でいかに土を運べるか、持ち上げられるかという経験も踏まえて生まれてきた形であり、それには機能美があります。美しさと本来果たす役割が一致したものが、人間の感性にも一番に格好良くきれいに感じられるのではないのでしょうか。

 山根 メカデザインでも機能的に無駄なものというのはうそくさくなりますね。アニメには無駄なデザインのものも多いのですが、先ほど話したように空想の世界もリアルさを求められ、本物との距離がどんどん近づいています。逆に言うと、キャラクター的にとっぴさや迫力は失われていくのが悩みでもあります。架空に過ぎるのも好まれないため、アニメ業界では昔のように大胆な発想の企画が立ちにくくなっているとも言え、メカの訴求力は弱まっているかもしれません。

 □ビルや橋の形が変わる可能性も□

『機動戦士ガンダム THE ORIGIN』に登場するモビルワーカー(ⓒ サンライズ)
 若い人たちに魅力を感じてもらうには、いかに業界全体を格好良くクールに見せていくかも大切です。デザインの世界がその一翼を担い、応援してもらえたら大変ありがたいと思います。実際にガンダムのモビルスーツやモビルワーカーのようなものがこれから出てくるでしょうし、建設現場向けに人の作業をサポートするロボットや機械がもっと提供されていくはずです。ビルをロボットが造る時代がいずれ来ると思います。

 山根 そうですね。ガンダムの中で、人々が宇宙で生活するための巨大な施設「スペースコロニー」が登場します。『機動戦士ガンダムUC(ユニコーン)』という作品では、スペースコロニーを建造するのに「メガラニカ」と名付けられた工法を使います。これはトンネルを造るケーソンやシールド工法などをヒントにしたアイデアで、円筒形のスペースコロニーを輪の中で編み込むように造っていきます。私がメカニックデザインを担当した作品『カウボーイビバップ』には、宇宙船同士をドッキングさせる場面がありますが、スパイラルチューブのようなものをつなげて相手の船に乗り込みます。このドッキング方法も実際のテクノロジーを参考にさせていただきました。

  ビルを1フロアずつ囲いの中で造って上に押し上げていく工法や、逆に1フロアずつ壊して下に落としていく解体工法など、都心ならではの工法や技術が既に実用化されています。しかし、まだ人手が必要であり、これからロボットがどれだけサポートしてくれるのかが注目されます。

 山根 日本ではインフラの老朽化が大きな課題と聞いています。私はロボットの中でも、老朽化したインフラの補修などに利用するロボットは小型化していくのではないかとみています。コンクリートやアスファルトそのものがAIを持って自己診断する。橋も「ここが壊れそうだ」と自己診断して知らせる。そういう時代が来るのではないでしょうか。ナノマシンならコンクリートの隙間にも入っていけます。

  まさに私たちが子どもの頃に制作されたSF映画『ミクロの決死圏』の世界と同じですね。映画では人体が対象ですが、マンションの配管にそうした小型ロボットが入っておかしな箇所を見付けたり、橋でも骨折しそうなところをナノレベルのロボットが見付けて修理もしれてくれたりする。夢のように聞こえますが、実際には近い世界だと思います。かつてテレビで『スタートレック』を胸躍らせながら見ていたのは、近未来の宇宙空間でロボットや機械が働くさまに期待していたからでした。

 山根 今なら『スタートレック』で見た転送装置も実現できるのではないかと思っています。3Dスキャナーで計測し、そのデータを他の場所に電送して3Dプリンターで造形すれば形だけは転送できる時代ですから、ビルも3Dプリンターを応用して造れるのではないでしょうか。

  航空機分野ではジェットエンジンを3Dプリンターで作るプロジェクトが動きだしています。これまで大きいものはボルト締めや溶接をして作らないといけなかったのですが、3Dプリンターではそうしたことが不要になるため、作る物の形そのものが変わっていくのではないかと言われています。ビルを造れる、橋を造れる、となれば構造物としての形が変わっていくのかもしれません。

 山根 やはりアニメの世界より現実の方が進んでいる感がありますね。マンガやアニメの世界はもっと大胆な発想で皆さんを刺激できるようになっていかないといけない。

  アニメの世界のロボットは、厳しい環境での作業や敵が襲来した時の防衛などに使われているという印象があります。実社会でもロボットが災害の被災地や原子力発電所など厳しい環境下で活躍する場面があり、そうしたことでブレークスルーしていくのではないかと思います。

 山根 私もそう思います。

  官民で取り組んでいるi-Constructionでは、ICTなどを建設現場に組み入れていくことで、熟練オペレーターでなくてもスムーズな建機の操作が可能になるなどの効果も期待できます。人間と機械のコラボであり、除雪の現場も同様です。土砂災害の現場などではまず遠隔操縦で無人の機械が動き、安全を確保してから人が入っていくことも普通にできるようになっています。

 山根 危険な場所から人を遠ざけられるのは素晴らしいことです。

  アニメに出てくるロボットはほとんどが人とのコラボですよね。

 山根 ロボットに人が乗らないと面白くない、というのはアニメの世界でかなり根強いものがあります。無人のロボットが動き回る世界はゲーム世代の若者にはいいかもしれませんが、これではアニメのロボットに乗ることに憧れている子どもたちにはさみしいかもしれません。

  完全に機械に任せるのと、人と機械のコラボとでは、その開発のコストや仕組みも大きく違うと言われています。建設現場でも100%任せられる機械を作るのは大変なことです。でも人とのコラボであれば、かなりの確率でイメージしているものを実現していけるでしょう。

 □現場を美しく見せ街のアクセントに□


 山根 IoTやICTには冷たいものを感じ、機械化され、無人化されていく工事現場を想像していました。森技監のお話を伺い、建設業や現場にはまだ人間味のあるところが多いと分かり安心しました。最後にこれはデザイナーとしてのお願いですが、工事現場を美しく見せてほしいと思います。街の空間に溶け込み、大人が見て格好良く、素敵だと思える空間になれば、現場が「街のアクセント」になります。

  おっしゃる通りで、美化やイメージアップを通じて現場がよりきれいになれば、若い人たちにそうしたイメージを持って接してもらえるし、市民の方々の見方も変わっていくと期待できます。

 山根 人や機械が働いている現場そのものが美しく見られるようになっていくことに期待します。

  アニメの世界では実際の建械や建設技術からも発想を起こしてデザインすることがあると知り、大変に興味深いものがありました。私たちも空想を働かさないといけません。次のイメージを自分の頭の中につくり上げていく力を養っていくためにも、アニメの世界から刺激を与えていただければと思います。
《略歴》

 国土交通省技監・森昌文氏(もり・まさふみ、写真左)1981年東大工学部卒、建設省(現国交省)入省。九州地方整備局福岡国道工事事務所長、道路局有料道路課長、同高速道路課長、同企画課長、官房技術審議官、近畿地方整備局長、道路局長などを経て、16年6月から現職。奈良県出身、58歳。

 メカニックデザイナー・山根公利氏(やまね・きみとし、写真右)出身地島根県の江津工業高校を卒業後に上京。専門学校を経てアニメの企画会社に入社。その後独立しメカニックデザイナーとしてデビュー。代表作は『カウボーイビバップ』、劇場版『天空のエスカフローネ』、『機動戦士ガンダムSEED』、『機動戦士ガンダム THE ORIGIN』など多数。51歳。

(企画協力=サンライズ、前田建設ファンタジー営業部)

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