2017年10月23日月曜日

【駆け出しのころ】鉄建建設取締役専務執行役員管理本部長・柳下哲氏

 ◇誠意は必ず伝えられるもの◇

 入社して最初に配属された部署は本社の総務部人事課です。上司から雑談の中で、「ここは1年で出るから、その後はどこに行きたい」と聞かれたため、東京地区の現場を希望しました。ところが2年目に配属となったのは仙台支店(現東北支店)の内勤で、「会社の人事というのは希望通りにはいかない」と最初から痛感したものです。

 仙台支店に異動して3年後、地下鉄工事の現場で事務を担当することになります。同期の事務職でも最初から現場に出ている人たちもいましたので、私は少し遅れて担当したことになります。ものづくりの会社を就職先に選んだのですから、いずれは現場の仕事に携わりたいと考えていましたが、現場事務に関する知識や経験もなく、不安と期待が交錯していたのを覚えています。

 現場では、近隣の渉外や家屋補償を担当するほか、本来は技術職の社員が行う実施予算書に関わる業務に携わることができました。また、これは得意分野でしたが、安全協議会後の懇親会の段取りなども精力的に行うなど、いろいろなことを経験させていただきました。この現場での大きな収穫の一つは、事務職の立場として土木や建築、機電など他の職種の人たちから学ぶ大切さを知ったことです。

 結婚したのもこの時期で、現場の近くに借りたアパートで新婚生活を送りました。百数十軒に及ぶ家屋補償の交渉を終え、その後、東京の本社に異動しましたが、最後にようやく補償の書類に判を押していただいた方が、異動先に記念品を送ってくださった時はうれしく、「誠意は必ず伝わる」との思いを新たにしました。仙台支店の現場で過ごした約6年間は、今の自分の原点になっていると言っても過言ではありません。それから本社に戻り、その後、当時の日本生産性本部の夜間講座に1年間通わせていただきました。この時期に異業種の方々と知り合え、一緒に学んだことも自分にとって大きな糧になっています。

 現場で働く事務職の社員には、現場のことにもっと深く関わってほしいと思います。たとえ権限がなくても立場を乗り越えてやらなければいけないことはあるもので、所長の考えをよく聞いて現場を広範囲に支援していくことが必要です。

 また、会社の要請と個人の希望というのは、本来なら調和しているべきですが、なかなかうまくいくものではありません。しかし、個人の希望に会社の要請をできるだけ合わせていく時代にはなっていると思います。希望を持ち続け、調和するために頑張ってほしいと期待します。そして、誰でもいずれは会社を退職する時が来ます。その時に「第二の人生」のスタートをどう切るかは大事なことです。家族を大切にすることはもちろんですが、仕事ばかりではなく、趣味やボランティアなど打ち込めるものを持つことが必要でしょう。これは若い人たちに対する私からの自戒の念を込めたアドバイスです。

 (やぎした・さとし)1978年早稲田大学政治経済学部経済学科卒、鉄建建設入社。執行役員管理本部副本部長兼総務人事部長、取締役執行役員管理本部長、同常務執行役員管理本部長などを経て、17年4月から現職。神奈川県出身、63歳。

1986年頃に仙台市内の地下鉄工事現場で
(後列右端が本人)

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