2017年10月2日月曜日

【中堅世代】それぞれの建設業・179

裾野が広く重層化した建設産業には難しい課題も多い
 ◇当たり前のことを当たり前にやる覚悟◇

 若い担い手の確保につながる社会保険加入や、労働時間を減らす働き方改革に建設産業全体が向き合わざるを得なくなり、東京都内で専門工事会社を営む新居辰基さん(仮名)は複雑な思いを抱くことが増えた。

 「元請業者から法定福利費をもらえず、経営が厳しい」。そう窮状を嘆く同業の仲間は多い。技能者を月給制社員に登用する取り組みを進める会社は、社会保険料の負担が増し、元請業者からの受注の繁閑調整がうまくいかない時期が続くほど経営が圧迫されていく。

 新居さんの会社は、先代の意向と、何より「若い人のため」との思いで早くから社員化を進め、社会保険加入率は100%にしている。「(法定福利費を)元請業者からもらえばいいではないか。経営者としてなぜもらわずに帰ってくるのか」と仲間に言い返したい思いがある。

 一方で、倒産したり、廃業を選択したりする下請業者が増えてきていることもよく耳にする。法定福利費が満額計上されているとはとても思えない金額でも仕事を請け負わざるを得ない仲間を責め切れない。

 不当に安い価格での下請契約の横行が、業界の疲弊を招くことを経験してきた。「何とか価格を維持しようよ」。仲間として精いっぱいのエールを送る。会社の施工部隊は稼働率100%を維持できている。ただし、地元周辺だけで仕事を確保できているわけではない。近隣県や東北地方の現場も含めての数字だ。「仕事が豊富とは言えない」。だからこそ仲間には「経営者の責務」として法定福利費を確保した契約を締結しようとハッパをかけている。

 時間外労働の罰則付き上限規制の導入に備え、ゼネコンが週休2日の定着に乗りだしている。新居さんの会社は月給制・社員化への移行が完了しており、次は休日の確保や有給休暇の取得促進が課題とみる。

 「子どもが生まれたばかりの頃、仕事を優先した。若手にはそうさせたくない」。施工班、加工場、管理部門それぞれの社員には「きちんと休みを取ってほしい」と思う。しかし懸念がある。休みを取れる社員や部署が固定すれば不満が出てくる。所帯の大きな会社ではない。不公平感から職場の人間関係が悪化し、現場の作業効率が落ちたりすれば、すぐに会社全体のパフォーマンスが低下する。「休もう」という経営者の善意が招く結果が気になる。

 適正価格で仕事を受注し続けるには、品質と作業効率の高さを元請に知ってもらうだけではなく、施工図の作成・修正といった「汗かき」仕事への対価を得ることも必要だ。そのためには技術力を磨くことが欠かせない。若手には資格の取得を促し、技術力の研さんに会社を挙げて努めようと考えている。

 社会保険加入や有休取得は「世間的には当たり前のこと」と認識しているが、裾野が広く、重層化が特徴の産業構造の中では簡単に解決できない問題は多い。だからこそ覚悟して貫きたい。「経営者として当たり前のことを当たり前にやり切る」と。

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