仕事と子育てが両立できる環境整備は不可避の課題だ |
◇壁は高いが、仕事を続けたい◇
「バイクが好きで、よく山あいの道をツーリングしていた。でも斜面が緑化されずにコンクリートで覆われているような山がいっぱいあって。人工的な山は嫌だなと、ずっと思っていた」。大学で農業土木を専攻していた武中祐子さん(仮名)は、「道路と周りの環境の調和に関われないか」との思いで道路舗装会社で働くことを決めた。
当初は道路関係のコンサルタントのような仕事をイメージしていたが、半年の研修期間中に配属されたのは地方の現場。イメージとは違ったが、「現場を経験してみたいという気持ちもあったので、ショックを受けたりはしなかった」。研修期間が終わると、技術研究所に配属された。
転機が訪れたのは、入社8年目を迎えた2002年に第1子を出産した時。当時は女性技術職は少なく、出産後に仕事に復帰した女性はいなかった。上司には「出産するなら、君の帰ってくる席はない」と言われたが、事前に法律の本を読んで知識を得ていたので「必ず復帰します」と答えて産休に。1年後、産休明けに仕事復帰した初めての女性技術職になった。
だが、現実は思い描いていたものとは違った。最初は産休前と同じく技術研究所に配属されたが、3カ月ほどすると上司の言葉通りに配置換えに。その後は、工務や事務の担当として地方の支店や事務所への異動を繰り返した。
「会社を辞めよう」と思っていた矢先、2度目の転機が訪れた。当時所属していた部署の上司が、首都圏に新設される試験所の所長になることが決まり、研究所にいた経験を買われて研究職として一緒に異動することになった。
子育てしながら仕事を続けることは難しく、時間管理を徹底するようになった。子どもの保育園のお迎えのため、定時で帰れるよう、毎朝仕事の優先順位を付けながら1日のスケジュールを立て、計画通りに仕事をこなす。できることは常に前倒しで進めてきた。子どもが急病で保育園から呼び出しがあってもいいように、仕事の経過を逐一メモに残し、いつでも同僚に引き継げるようにしてきた。
第1子の出産から15年がたち、今では3児の母、女性技術職の最年長となった。「女性職員の目標になる人物でいたい」と話すが、15年を経ても、女性が働きながら子育てをしていくことに対する社会の意識や制度の壁は、それほど低くはなっていないと感じる。
「男性には男性なりの付き合い、昇進の仕方があるが、私は子育てをしていて夕方からは全然会社に居ないし、男性のやり方をそのまま使うことはできない」。そうした中でも、周りから認められ、自分なりの強みを持てるようにと技術士の資格取得に向けて勉強を続けている。
壁は依然高いが、「ずっと仕事を続けられたらいいな」と思っている。「定年まで働いて、うまくいったら地元に戻って技術士事務所でも開けたら」。女性技術者のパイオニアとして、気持ちはあくまでも前向きだ。
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