人材不足の中で後継者をどう育てるか。 苦悩する現場技術者は多い |
人材不足が叫ばれる建設業界で、各社が後継者の育成に頭を悩ませている。
中堅ゼネコンに土木技術者として入社し、20年を超す経験を積んだ佐藤浩介さん(仮名)も、同じ悩みを抱える一人だ。今は水道インフラの整備工事で現場所長を務めており、若手を見る機会が多い。「今の若手を見ていると、マニュアル通りには動けるが、それ以上を求めるとなかなか難しい」。そう不満をこぼす。
これまで、土木一筋で現場を渡り歩いてきた。地下鉄の駅やトンネル、ダムなどのさまざまな土木工事を手掛けてきた自身を「何でも屋」と評する。それだけに、技術とはマニュアルではなく、現場で鍛えていくものという意識が強い。「自分の時代にはマニュアルなんてなかった。みんなが現場に体当たりでぶつかって学んでいくものだった」と振り返る。
その姿勢は今も変わらない。「現場では想定外のトラブルが起きる。それに焦らず、しっかりと原因を究明して対処することが技術だ」。今の担当現場でも、構造物に取り付けてある変位計が異常値を示したことがあった。土の性状をもう一度調べ直して原因を突き止め、対策工事を行い、無事に切り抜けた。「現場にはこうすればうまくいくという正解はない。正解があるという思い込みを捨てることが大切」。そう強調する。
だからこそ、最近の若手を見ていると歯がゆく感じてしまう。真面目で、きちんとした知識も持っているが、決まったことにしか対応できていないと感じることが多い。「指示には従ってくれるが、自分で考えることができない。このままでは実践で使える技術は身に付かないのでは」と心配する。
思い返すと、苦しい状況下に何度も身を置く中で、自分で考える能力が身に付いていった。だが、若手はまだそうした場面に出会っていない。そうした思いから、若手に対して、手掛けている作業の意味を自ら考えさせるように努めている。
「マニュアルに従うだけなら誰でもできる。なぜ、そうなるのかを考えないことにはいつまでたっても技術は身に付かない」と意図を話す。地下水位の計測作業であれば、数値だけを報告させるのではなく、正常なのか異常なのかを判断させ、なぜそう考えたのかまで問いただす。
第三者への現場見学会などに若手を登場させ、イレギュラーな状況に慣れさせるようにも心掛けている。「若手にとっても、自分のやっている日々の作業が何につながるかをイメージする良い機会になっているようだ」。
若手を見ていて、右も左も分からずに懸命に仕事に取り組んでいた若い頃の自分の姿と重なることがある。
建設業をめぐる環境は当時とは大きく変わっているが、自分で考えて行動するという姿勢が最も大事な点は今も変わっていないと思う。そうしたことを伝えるのが、技術の伝承にとって大事ではないか。そんな思いを強くしている。
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