静まりかえった室内に響く社名と金額を読み上げる声。電子入札が普及する以前、公共工事を発注する国や自治体では「入札室」と呼ばれる場所に建設会社などの担当者が集まり、結果に一喜一憂する光景を見ることができた▼「A社○円、B社○円、C社○円…。本件は○円で応札したA社を落札者とします」。入札室での取材が許されていた頃、落札できたかどうかで当事者の表情がここまで違うものかと感じた▼1件の受注が業績を大きく左右するのだから、入札室に漂う重苦しくぴりぴりした雰囲気は当然だったのであろう。昔を懐かしむ訳ではないが、体験してみないと分からないことは多い▼今にして思うと駆け出しの記者だった自分にとって、入札室で味わった空気感は建設業の最前線を知る貴重な時間だった。それから20数年。建設専門紙に長らく在籍したおかげで、入札契約制度の移り変わりと建設産業の変化をつぶさに見ることができた▼「不惑(40歳)」の時を過ぎ、間もなく天命を知る「知命(50歳)」を迎える。孔子の教えに従い、これまでの記者生活を振り返り自分の役割が何かを考えなければと思う。
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