◇沿岸部に研究産業都市形成、民間推進協が後押し◇
福島県に先端技術の研究開発拠点やエネルギー施設などを誘致する「イノベーション・コースト構想」が実現に向けて動きだした。
東日本大震災に伴う津波と原発事故で深刻な被害が生じた沿岸部に研究施設や企業を集め、交通軸で面的に連動させながら、人的・経済的交流を促す構想だ。2020年東京五輪開催を被災地復興と経済活性化の好機と捉え、民間企業の力で事業を後押ししている。
イノベーション・コースト構想では、震災と原発事故で二重の被害を受けた県沿岸の15市町に、国や県などがロボット開発の試験場や再生可能エネルギー発電施設、スマートコミュニティーなどを整備し、国際的な研究産業都市を形成する。構想は、震災から3年弱が経過した14年1月に始動した。
16年3月11日には、豊富なアイデアと資金力を持つ県内外の企業らで構成する民間主体のイノベーション・コースト構想推進企業協議会が設立された。構想推進に加勢し、経済活性化を実現することを目指す。
協議会の幹事は三菱総合研究所と東芝、東京電力、日立製作所、スリーエムジャパン、アトックスの6社。協議会は、東京五輪開催を大きな節目と捉え、県内外の企業らで構想に魂を吹き込むことを狙いとした活動を展開。国や県などが整備するインフラを最大限に活用しながら、観光や農業、地域交通などを活性化させる方策を検討している。
20年までにハード・ソフト整備におおよその見通しを立て、東京五輪をジャンプ台として、国内総生産(GDP)に占める企業活動の割合を一気に増大させる青写真を描く。
三菱総研の船曳淳原子力安全事業本部復興・再生グループリーダーは、「構想の全体像が見えづらいため、企業の投資を呼び込みにくい状況になっている」と課題を分析。東北や日本の経済に漂う停滞感を打破する勢いを持った事業を選別し、そこに集中投資する必要性を説く。
船曳氏は「(構想に)地元企業を巻き込みながら、官民の連携を促すのが協議会の大きな役割だ」と指摘。東京五輪はゴールではなく、被災地の経済を浮揚させるための通過点に過ぎないとの見解を強調する。
協議会では、15市町に構築されるハードとソフトを広域的に結び付け、「面」として機能を最大化する取り組みを重視している。被災地に築く広域交通体系を提案するための検討部会も立ち上げた。
福島県の18年度当初予算には、ロボットテストフィールドやアーカイブ拠点、農業復旧など、構想を実現するための経費として約700億円が盛り込まれた。
構想の中核となる「福島ロボットテストフィールド」(南相馬市)の研究棟建設工事が2月6日に始まり、施設整備の口火を切った。今後、被災市町でハード・ソフト両面の整備が本格始動する。
テストフィールドの周辺では、震災後に東京電力福島第1原発事故処理の前線基地にもなった「Jヴィレッジ」(福島県楢葉町)の再生事業も本格化している。一部の施設が今年7月に先行開業する。県南部の矢吹町に新たな工業団地を誘致し、ロボット開発や宇宙航空産業を誘致する計画もある。
構想に盛り込まれた多くの事業が20年の五輪前後に相次いで具体化していき、福島の再生・復興を力強くけん引していくことになる。
◇JAPIC、「整備庁」創設を提案◇
国や自治体などが進めるイノベーション・コースト構想に合わせ、次世代を見据えたプロジェクトの提案も出ている。日本プロジェクト産業協議会(JAPIC)は、「BEYOND 2020」と名付けた全国が対象の開発構想の中で、福島県沿岸部の復興・再生に向けて、世界最先端の研究・産業拠点を構築することを提案した。
この中でJAPICは、イノベーション・コースト構想を踏まえつつ、放射性廃棄物処理の革新技術実証研究施設や、物質の成分・構造などを分析・解析する放射光施設、廃炉を含めた国際的な安全・災害対応研修拠点などの整備を求めた。
原子力発電所の事故を経験した被災地だからこそ、放射性物質の除染と廃炉を確実に行うだけでなく、その経験を新たな研究や地域の発展に生かすよう思い切った開発事業の遂行を提唱。高度経済成長を支えた旧首都圏整備委員会のような機能を担う「福島イノベーションコースト整備庁」を創設し、強いリーダーシップで開発事業をけん引するよう政府に呼び掛けている。
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