建設現場で働く技能者らの処遇改善に向けた取り組みが一段と活発化している。6月の「第3次担い手3法」の成立を受け、適正な賃金が技能者一人一人に行き渡る環境を整えようと、国や関係団体らでさまざまな施策の具体化や制度化の検討が進む。専門工事業の魅力をより高めることで若者たちの入職を促し、持続可能な建設業の実現を目指す。国土交通省不動産・建設経済局の城麻実建設振興課長に、専門工事業の発展を後押しする関連施策や今後の展望を聞いた。
--専門工事業の現状をどう見ていますか。
「将来の担い手の確保は、専門工事業はもちろん、建設産業全体で最重要課題かつ喫緊の課題の一つと認識しています。技能者の高齢化が進んでおり、現場で頑張っている人たちが10年後にリタイアされた時にどうなるのか。若者に建設業で働きたいと思ってもらう上で大事なのは処遇改善であり、建設業法、公共工事入札契約適正化法(入契法)、公共工事品質確保促進法(公共工事品確法)を一体的に改正し、6月に成立した『第3次担い手3法』でも担い手の確保や生産性の向上などを柱に掲げています。技能者の皆さんがいなければ工事を進めることはできません」
--今回の法改正のポイントについて。
「第3次担い手3法は、専門工事業で働く技能者の皆さんに適切な賃金が行き渡るところに注力している法律だと言えます。適正な労務費の基準に関する中央建設業審議会(中建審)のワーキンググループ(WG)でも『技能労働者の賃金が行き渡ること』を労務費の基準の目的として明確にしています。建設業の商慣行である請負契約の中で、元請側から価格が決まるのではなく、下請側から必要な経費分をしっかり積み上げていく世界を目指します」
「資材価格の高騰に伴う労務費へのしわ寄せ防止も、今回の法改正の重要事項の一つ。資材高騰の影響がありそうだという『リスク情報(おそれ情報)』を受注者から注文者に通知し、実際にそれが顕在化した時は、請負代金について受発注者間で誠実に変更協議に臨むよう求めています。このほか、働き方改革を進めるため、工期ダンピング対策も強化しています。著しく短い工期での契約締結を発注者だけでなく、受注者にも禁じました」
「生産性向上に向けては、ICTを活用した現場管理の効率化を推進すべく、国が指針を作成します。これら一連の施策は段階的に施行され、最後は今から1年後の来年12月までに著しく低い労務費の禁止やダンピング対策の強化などが施行されます。当局では、第3次担い手3法が今後の魅力ある建設産業につながるよう、局を挙げて取り組んでいます」
--契約の適正化をどう進めていきますか。
「労務費の基準にかかる職種別の検討は、鉄筋と型枠の2職種と、住宅分野で先行して取り組み、そこでの成果を他の職種での議論にも反映していく予定です。基準づくりの基本的な考え方は『単位施工量当たりの金額』。1人当たりの金額ではただの単価になってしまうので、生産性部分で競争の余地を残します。また大切なのは、適正水準の労務費が重層下請構造の中で下請事業者まで行き渡り、さらには、技能者の方々へ賃金が行き渡ることです。適正な労務費・賃金の支払いに向けた仕組みも検討していきます」
「労務費が確保されても他が削られては意味がありません。労務費だけでなく、必要な経費についても見積もりの中できちんと内訳を明示すること。発注者・元請・下請といった契約手続き上の関係者がそれぞれの段階でしっかり必要経費を認識することが重要です。労務費の基準に関するWGでは、請負契約の競争性を保ちつつ、いかに必要経費の行き渡りを進めるか検討しており、今後、より具体的な議論に入っていきます。元請・下請の関係者が一堂に会して、職種別にきめ細かく、忌憚(きたん)なく意見を交わし、関係者が合意した形で基準づくりを進め、新たな商慣行へと近づけていくことを重要視しています」
「今回の法改正の前から専門工事業団体では、法定福利費の内訳明示などで、熱心に標準見積書を作っていただいていると思います。最近では取り組み内容が多岐にわたる安全衛生経費について、注文者と受注者でどちらが対策を実施し、どちらが費用負担するかを整理する『確認表』の作成や、安全衛生経費の内訳を明示した『見積書』の作成を促進しています。こうした取り組みを通じて、必要経費がきちんと確保されるようにすることも、労務費の基準の議論に加え、重要な点です」
「着任後、専門工事業は、非常に多くの職種からなる多様性に驚かされました。労務費の基準の職種別意見交換では、それぞれの職種の特性や現在の商慣行なども踏まえ、労務費の基準の作成のみならず、その実効性を確保するには、どうしていくべきかをしっかり業界の皆さんとも意見交換しながら、実態もよく伺いながら、議論を進めていきたいと考えています」
--建設キャリアアップシステム(CCUS)の今後の展望は。
「CCUSは技能・経験に応じた適切な処遇につながる業界横断のシステムであり、これまでの取り組みで技能者・事業者の登録は進みました。今後は、技能者の皆さんがメリットを感じられるものへと、さらに発展させていきます」
--担い手の確保では、女性や外国人材など誰もが働きやすい環境整備も不可欠です。
「現在、国交省では、建設産業で働く女性の活躍・定着を促進する新しい実行計画の年度内の策定に向け、建設分野の関連団体との検討会でさまざまな意見を交わしています。技術者、技能者それぞれの立場で課題も異なり、よりきめ細かく議論していくこととしています。また、女性活躍・定着促進を議論の切り口にしつつも、過度に女性のみに着目するのではなく、女性が働きやすい職場は若者や外国人の方々も含め、全ての人たちにとって働きやすい職場である、という意識の下、建設産業全体の担い手確保につながるような内容とすべく、検討を進めています」
「検討に際し、重点テーマを三つ設定しています。一つは、きめ細かい広報戦略。ターゲットとして、高校生や大学生など就職を控えたご本人ももちろんながら保護者の方々や先生方、さらには小中学生へのPR強化も必要であると認識しています。これまでも、業界団体・企業の皆さんはいろいろ工夫し、国交省としても情報発信を行ってきましたが、今後の広報についての方向性が示せればと考えています」
「二つ目は、例えば建設ディレクターといった女性が活躍しやすい領域を明示すること。より具体的なイメージが持てるような形で発信したいです。三つ目は建設産業の現場について、ハード・ソフト両面から改善していくこと。トイレや更衣室などハード面からの現場環境の改善に加え、現場で働く人たちの理解醸成といったソフト面の取り組みも必要です。現場に着目するということで、専門工事業の皆さんにもしっかりとフォーカスしながら新計画をまとめていきます」
「本日お話ししたことは、いずれも国と建設業界が官民連携して取り組むことが必要不可欠であり、業界の協力をいただきながら、一緒に魅力ある専門工事業界の実現に向けて、取り組んでいきたいと考えています」。
from 人事・動静 – 日刊建設工業新聞 https://www.decn.co.jp/?p=169537
via 日刊建設工業新聞
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