2018年6月4日月曜日

【中堅世代】それぞれの建設業・201

開発したビルの商業施設で買い物客が行き交う姿を
始めてみた時、感慨深いものがあった
 ◇施設の管理運営も街づくりの一翼◇

 大学時代に建築学科で都市計画を学んだ田辺和則さん(仮名)は、「街づくりに携わりたい」という強い思いから卒業後はデベロッパーに入社した。当初は開発用地の仕入れを担う部署に配属されたが、3年目に開発部門への異動がかなった。それから10年弱の間、複合型の再開発事業のプロジェクトチームに所属し、事業の初動から完成までを見守った。

 振り返ると、事業は地権者の合意形成がなかなか進まないなどの難局があった。スケジュール通りに進めたいという焦りもあったが、所有資産の中で最も高価な不動産が「再開発によってどのように置き換わるかは人生を左右しかねない重要な問題だ。慎重になるのは当然」と地権者の気持ちに寄り添いながら丁寧な説明を重ねた。最終的には事業の意義や効果に地権者から理解と賛同を得て具体化にこぎ着けられた。

 「竣工まで時間はかかったが、責任のある仕事だからこそ何ともいえないやりがいを感じた」

 事業の完成を見届け、達成感を味わったのもつかの間、商業施設の管理運営部門への異動が決まった。都市開発に関わる仕事をしたいという思いで入社したことを思えば「人事異動は社会人としての宿命だと理解していたが、実際自分の身に降りかかってくると簡単に割り切れるものではない」。プロジェクトチームが開いてくれた送別会の席でチームリーダーと話しながら、酔いに任せて不満をこぼしてしまった。

 リーダーは「生まれたての施設を育てていくことも街づくりの重要な要素だぞ」と諭し励ましてくれたが、気持ちが追いつかず、力なくうなずくことしかできなかった。結局、心の底から納得できないまま新たな部署での業務をスタートさせた。ただ、幸いなことに管理運営を担当するのは、長年開発に携わり完成を見届けたあの再開発ビルの商業施設だった。その上、異動先には開発の過程で商業施設部分の仕様などについてひざを突き合わせて話し合ったメンバーが多く、すぐになじむことができた。

 現在の業務はテナント企業との調整が大半だが、施設を訪れたお客さまの様子を見る機会も多い。楽しみながら買い物をしている姿を目の当たりにして、「一から携わった施設が完成後にどのように地域に根付いていくのか、愛されていくのかを見守っていけるのは幸せなことだ」と前向きになれたし、今更ながら以前のチームリーダーの言葉が腹の底に落ちた。

 近年はEコマース(電子商取引)が急速に広がっており「商業施設というリアルな場をいかに過ごしやすく、再び訪れたい空間にしていくか」と知恵を絞る毎日だが、それもこの仕事の醍醐味(だいごみ)。充実した日々を送る一方で、都市開発への熱意は依然として秘め続けている。

 「今は施設の使い心地やお客さまのニーズなどを肌で感じられる。今後開発に携わるときには、その視点や経験が必ず生きるはずだ」

 そう信じて、今日も商業施設から街づくりを支えている。

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