今でこそ住宅はさまざまな構造や工法で建てられるが、高度経済成長の足音が聞こえ始めた1950年代の日本では住宅のほとんどが伝統的な木造軸組構造だった▼鉄骨を組んで住宅を建てるという発想自体が皆無に等しかったその時代、軽量鉄骨造の住宅をつくった建築家がいた。1922年神奈川県鎌倉市に生まれた広瀬鎌二がその人。54年に完成した自邸を皮切りに70年代まで軽量鉄骨造の建物を作り続け、一連の作品は「SHシリーズ」として建築界で知られる▼スチールを使ったシャープで機能的な広瀬建築は一見すると新しさを追っているようだが、実は伝統的な日本建築の原点を探求した建築家でもあったと聞く▼亡くなる5年前の2007年に取材した講演会で「発想することは誰でもでき、ある種の無責任さがある。それを実現することに建築家、プロとしての価値がある」と語っていた▼広瀬の生誕100年記念展がこの秋、東京都港区の日本建築学会ギャラリーで開かれる。生誕100年を迎える22年まで毎年行われる企画展の初弾だ。プロの仕事に触れられる絶好の機会を今から楽しみに待ちたいと思う。
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