2018年6月7日木曜日

【仕掛け動かしクルマの役割学ぶ】うごかすえほん『はたらくくるまとまちをつくろう!』を出版

 残り続ける本を作りたい-。そんな思いで設立した、まる出版(東京都渋谷区、高橋淳二社長)から働く車を題材にした動かす絵本が出版された。

 ショベルカーやブルドーザー、ダンプトラックなどが新たな街を作り上げていく様子を、楽しみながら学ぶことができる。編集者、イラストレーター、デザイナーが三位一体で完成させた絵本の狙いや苦労話を取材した。

 まる出版の設立は15年7月。毎年何万冊もの書籍が発刊されては消えていく出版業界の現状を憂い、「自分たちが作った本が継続して売れるようにしたいと考えた」と設立の経緯を話すのは、今回出版した『うごかすえほん はたらくくるまとまちをつくろう!』の著者の1人でもある同社編集者の野口武さん。

 ◇残り続ける本を作りたい◇

 もともと考えていたのはビッグ絵本。A2判くらいの大きなサイズで働く車のダイナミックさを伝えようと試行錯誤していた。子どもに見せる工事車両の図鑑や絵本はこれまでも数多く出版されてきたが、それぞれの車両がどんな働き方をしているかが分からない。何もない大地に道路や建物が造られ、街になっていく。その時に活躍する車両の絵を子どもが手で動かすことができれば理解もしやすいと考えた。ページをめくるたびに登場する車両を動かしながら、どんな働きをしているかが分かるよう、工夫を凝らした絵本を作ることにした。

 登場する車両はショベルカーやブルドーザー、ダンプトラック、コンクリートミキサー車といったおなじみのものから、モーターグレーダーや高所作業車、コンクリートポンプ車、杭打ち機、シールドマシンまでさまざま。これら「働く車」が活躍し、荒野の状態から順々に街ができあがっていく様子を、14ページの中に詰め込んだ。

 3人が著者となって取り組んだ作業は、野口さんが絵本全体のイメージを伝えながら、各車両をイラストレーターの福島康子さんが描き、各ページへの配置や全体構成をデザイナーのかわうそ部長さんが担当した。

 野口さんは東日本大震災の被災地で行われる工事の様子を、一日中見ていたことがある。車両がひっきりなしに行き交い、現場で重機が動いて被災地から新しい街を作り上げていこうという姿に「ありがたかったし、かっこいいとも思った」そうだ。心に抱いた思いが絵本作りのきっかけにもなったという。

 これまでも野口さんと一緒に働く車を題材にした本作りに取り組んできたかわうそ部長さんは、「車両の動きを覚えてもらうことで、仕事そのものを伝えることになる」と考え、デザインをおこした。単に車両が動くだけでなく現場で働く人も描く構図で、より伝わりやすい内容にすることを目指した。

 普段は人物のイラストを描く福島さんはこれまで、絵本よりも一般書での仕事が多かった。野口さんから依頼を受け、まずはさまざまな車両を観察することから始めた。「じっくり見ているうちに細部をどこまで描くか、周囲の環境を含めた色合いをどう出していくのか」と悩みながら、車両のイラストを描き上げた。

 一読すると、絵本とは思えないような車両や重機の細かい説明が出てくる。例えば地下鉄や下水道の工事で活躍するシールドマシンは「超合金のかたい刃を回転させてほる」「エレクターでセグメントを組み合わせて壁をつくる」などといった具合だ。

 ◇重機を動かし楽しく学ぶ◇

 2~4歳の子どもに親が読み聞かせるのが最初のターゲットだが、小学生の「調べ学習」の第一歩にもなることを目指した。ゲームやテレビなど刺激が強いものが多い世の中にあって、「自分の意思で向かっていく本を通して、じんわりと世界が広がっていく楽しさを味わってもらいたい」という思いも込めた。

本づくりの経緯をなどを話す
(左から)福島さん、野口さん、かわうそ部長さん
動かす絵本という性格上、丈夫な素材を選び、流通に乗せるための配慮も不可欠。そのため「製本会社を何社も訪れ、協力を取り付けることにも奔走した」(野口さん)。絵本の中で動かす車両はある程度のリアルさが必要で、家族や知り合いのつてをたどり「建設業界の方に見てもらい、クレーンのアウトリガーの出し方やワイヤの角度などについて指摘してもらいながら作り込んでいった」(同)。

 4月の出版後、絵本を読んだ人から「これまで杭打ち工事がうるさいと感じていたが、その重要性を再認識した」や「大人もじっくり読みたい本」といった反響があったそう。評判は上々で、幅広い年齢層にも受け入れられるようにと取り組んだことが奏功しているようだ。

 人々が豊かに暮らせるよう日々奮闘する建設業界の役割を分かりやすく伝える。子どもと一緒に「お父さんはこうした仕事をしているんだよ」と親子の会話が生まれることも、野口さんら3人の願いだ。

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