2018年6月18日月曜日

【中堅世代】それぞれの建設業・203

休みなしで働いていた頃は趣味のスキューバダイビングからも遠ざかっていた

 ◇働き方改革に複雑な思い◇

 建築の技術者としてゼネコンの地方支店に勤める原田恒夫さん(仮名)は、入社以来現場一筋で全国の現場を渡り歩いてきた。現場では上司に怒鳴られるのは当たり前で、徹夜や休日出勤もしばしばだった。しんどい思い出も多いが、つらい経験があったからこそ今の自分があると思っていた。そんな自分にとっての当たり前がここに来て、大きく変わろうとしている-。

 今から30年ほど前、20代のころは怒られっぱなしの日々だった。特に印象的なのが、20代半ばで途中から入った首都圏の大型再開発の現場。自分なりに精いっぱい働いていたつもりだがある日、上司から「おまえは全然仕事をしていないんだからな、もっと仕事しろ」とほかの職員や作業員の前で怒鳴られた。

 現場はまさに最盛期で、工事に途中から加わった自分が当初からの職員と同じモチベーションで働けるよう、あえて厳しい言葉で叱咤(しった)激励してくれたのだ。怒鳴られたことで「みんなに追いつかなくては」と心に火が付き、結果的に現場で苦労を共にする工事関係者の気持ちが一つになったと思う。

 怒られてばかりの20代を経て30代になると、現場での経験を重ねることで自信がつき始めた。30代後半、当時タワーマンションのはしりだった物件を手掛けていた。当時の自分は、手を動かすのは自分ではなく職人なのだからある程度まで計画を立てたら、そこから先は職人にまかせてしまおうというやり方だった。大きな失敗もなくなんとかなってしまっていたので、それでいいと思い込んでしまっていた。

 だがその現場で出会った上司はそのやり方を許さなかった。「本当にお前のやり方できちんと工事が進むのか説明してみろ」と理詰めで迫られ、一言も返せなかった。ある程度経験を積んだことで調子に乗りてんぐになっていた自分の鼻を、上司は見事にへし折った。

 その上司の下で先の先まで読んで計画することを徹底的に学んだ。最後まで道筋を付け、時には夜を徹し、休日にも出勤して段取りがうまくいくのか何度も考えた。気持ちが折れそうになった時もあったが、最終的には赤字覚悟と言われた現場で利益を出すことができた。

 その後もいくつかの現場を経て50代半ばにさしかかった今は現場を離れて地方の支店で管理業務に当たっている。働き方改革、週休2日、残業時間の削減…。自分が若いときには聞いたことのないような言葉が職場で飛び交っている。「徹夜や休日出勤なんて当たり前にしていたのに」という思いはぬぐえない。

 がむしゃらに頑張った自分や、自分を厳しく導いてくれた上司を否定されたような気持ちにもなる。ただ過去にこだわってばかりでは、前に進むことはできない。時代、時代で仕事の在り方や人の考え方は変わっていく。複雑な気持ちがあることは否定できないが、それでも今の流れをしっかりと受け止めて、後輩や部下と一緒に歩もうと決心している。

 働き方改革のおかげか、このところ少しずつ時間に余裕ができはじめている。学生時代から趣味でスキューバダイビングをしていたが、転勤先は雪国でしばらく海に行っていない。休みをとったら、久しぶりに沖縄の海に行こう。

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