想像以上に深刻だった熊本地震の被害を現場で目の当たりにした。 その経験は災害対応に対する重責を再認識する機会に |
「仕事では緊張する毎日を送っていますが、家に帰って家族のうれしそうな顔を見ると、充実感が得られます」。東京・霞が関の中央官庁で働く内田太郎さん(仮名)は笑顔を浮かべながらこう本音を漏らす。
大学生の時に知り合った妻と3人の子どもとの5人暮らし。今後の生活や教育の環境を慎重に考え、4年前に東京の郊外に待望の一軒家を購入した。中学3年の長男は昨年の高校受験で私立の第1志望校に合格。大学は理工学系に進み、海外留学を視野に入れて希望に燃えている。
内田さんは、家庭で感じる充実感の一方、仕事ではまったく違う重責と緊張感に悩む毎日を過ごしている。ここ数年、全国各地で頻発・激甚化している災害への対応に当たってきているからだ。
「災害の怖さは、まずいつどこで発生するか分からないということ。そして何より、災害の起こり方が変わってきているということです」
内田さんが携わってきた災害対応は16年4月の熊本地震から。直近では2月上旬に記録的な大雪に見舞われた福井県内の除雪対応で国の出先機関や被災自治体の職員らとやりとりした。
熊本地震が起きた瞬間は同僚と霞が関の近くにある飲食店にいた。夜9時すぎだった。店内にあるテレビ画面に「震度7」というテロップの文字が出た瞬間、すぐに店を出て職場に戻り、関係各所と被害状況の把握に当たった。最初の地震発生から間もない深夜1時すぎには震度7の揺れが再度発生した。
これまで経験したことがない大規模地震の起こり方に加え、夜間という視界の悪さも重なって「正直、自分自身がてんやわんやになり、出先機関や自治体の方々とのやりとりを的確に行えなかった」と反省しながら、当時を振り返る。地震発生からの初動対応が落ち着き始めたある日、被害状況の把握に当たった出先機関のベテランから「災害後の初動対応に迅速さが求められるのは当然だが、その前提として一番大事になるのが冷静さだ。あなた1人の混乱が原因で被害が拡大するかもしれないんだ」と指摘された。
熊本地震の発生から数週間後、実際に被災地に入って見た被害状況は想像していた以上に深刻だった。崩落した橋や土砂、倒壊・損壊した家屋や宅地…。思わず立ち尽くしたまま、災害対応が1人の力だけではどうにもできないという当たり前のことを改めて痛感した。被害状況を見た後に訪れた避難所の体育館には自身と同世代の多くの家族連れが身を寄せていた。自分の家族に照らし合わせて考えると、以前のように人ごととは思えず、災害対応の仕事に対する重責を再認識する機会になった。
その後発生した災害では、冷静さと自分自身を被災者に置き換えた考えを大切に持ちながら対応に当たってきた。最近の福井大雪対応では出先機関などの関係者から多くのねぎらいの言葉を掛けられ、少しほっとした。
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