作家・司馬遼太郎(1923~96年)は紀行シリーズ『街道をゆく』で播州揖保川・室津みちを旅している。室津に着いて宿の窓から見えたのは室津港(兵庫県たつの市)。奈良時代に行基が整備した悠久の歴史を持つ港である▼この港で水揚げされる代表的な海産物の一つは養殖カキ。三方を囲む山から豊かな栄養分が海に流れ込み、そこは良質なカキが育つまさに天然のゆりかごのようだという▼兵庫県がカキの名産地と知ったのは、建設関連会社の知人から「室津カキ」を頂いたのがきっかけだった。あまりのおいしさに産地を調べて分かった次第で、ファン歴こそ長くないものの味の良さには太鼓判を押せる▼育ったカキを一度引き揚げ、殻に付いた不純物を取り除くなどしてから、再び海に戻して身を太らせる。こうした一手間も二手間もかけるのもうまさの秘訣(ひけつ)だろう▼冒頭の紀行には室津のタコとシャコのことが書かれている。ここでカキの養殖が始まったのは90年代後半。司馬が旅で訪れた当時はまだ名産ではなかった。今の時代であれば、地域のブランドとなった海の恵みのカキもきっと登場したに違いない。
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