2021年3月11日木曜日

【東日本大震災から10年】日建連・山内隆司会長に聞く「経験とノウハウを次世代に継承」

  ◇復旧復興事業の円滑化に貢献◇

 東日本大震災の発生直後から、ゼネコン各社は関係機関の要請などに応じ被災地の復旧・復興に取り組んできた。日本建設業連合会(日建連)の山内隆司会長は、「復旧・復興の完遂に努めるとともに、国全体で防災・減災や国土強靱化を着実に進めなければならない」と建設業の役割を強調する。震災対応で培った経験・ノウハウを次世代に継承することも重要課題とし、処遇改善などの担い手確保や人材育成に向けた取り組みを一段と強化する必要性を訴える。

 □10年の節目も復興へ取り組み続く□

 10年の節目を迎えた東日本大震災の復旧・復興に向け、会員各社はさまざまな分野で事業に貢献してきた。総合建設企業としての動員力や機動力を発揮することが期待され、知見・経験の蓄積がない放射能に汚染されたがれきの撤去や除染作業も任された。緊急事態に頼られるのが建設業なのだと改めて実感した。

 津波被害を受けた地域における高台移転、堤防整備など主立ったインフラ事業はほぼ完了したが、今も避難生活を余儀なくされている方は少なくない。福島第1原発の廃炉対応なども道半ばであり、これからも復興に向けた取り組みは続く。建設業も被災各地の課題に目を向け、その解決に引き続き尽力していく。

 地震や台風、集中豪雨による河川の氾濫や大規模な土砂災害など、甚大な被害が毎年のように発生している。建設業にはそうした有事への対応力が求められる。東日本大震災の経験から、発注機関と日建連各支部との間で災害復旧に関する包括協定を締結している。応急復旧工事に直接関連しない資機材などの調達・運搬で、担当会社を決めるなど迅速に対応できる仕組みを構築するとともに、発災後に会員企業らが素早く駆け付け、幅広く被災地支援に貢献している。

 □処遇改善の流れを後戻りさせない□

 東日本大震災の復旧・復興の経験を次の世代につなげていかないといけない。首都直下地震や南海トラフ地震など、再び大震災に襲われた際、過去の経験に基づく適切な対応が被害の抑止や最小化、迅速な復旧・復興につながる。インフラの整備やメンテナンスに関わる技術の継承も同じだ。獲得したノウハウや技術を失わないためにも、建設業を担う人材を確保・育成していかなければならない。

 復旧・復興事業や東京オリパラ大会の開催に関連する需要を含め、近年、建設市況が堅調に推移し、公共工事設計労務単価の引き上げなども追い風に、技能者の処遇改善が進められてきたが、ここに来てコロナ禍の影響で民間投資に陰りが見え始め、事業量確保を企図した価格競争が生じ得ることが懸念される。

 こうした外部環境の変化に左右されることなく、官民を挙げて取り組む建設キャリアアップシステム(CCUS)など、これまで進めてきた処遇改善の努力を無駄にしてはならない。価格競争が激化すれば、CCUSを軌道に乗せるのが一段と難しくなる。元請のゼネコン各社がまず襟を正し、下請企業、さらには建設技能者らにしわ寄せがいかないよう適正価格での受注を心掛ける必要がある。

 □限られた予算で着実に防災減災・強靱化□

 新型コロナウイルスへの対応により、国や自治体の財政が厳しさを増すことは確実だ。そうした中でも防災・減災や国土強靱化への備えは待ったなしだ。限られた予算の中、国民の理解を得て効果的、効率的に対策を講じるべきだろう。

 役所など災害発生時に復旧・復興の拠点となる施設は優先的に耐震補強を進め強度を高めないといけない。ハザードマップで水害や土砂災害の危険性が高いエリアを避けた土地利用も求められる。地域が抱える災害リスクを抑えるため、建設業が果たすべき役割は大きい。

 東日本大震災の直後に発足した日建連の歩みは、被災地の復旧・復興の道のりと重なる。この間、建設業がなしてきたことを後世にきちんと伝えることも重要だ。地震発生後ただちに消防車などが現地にたどり着けたのは、建設企業らが初動対応として重機とオペレーターを動員し、周辺道路も含めてがれきを取り除いた経緯があるということを、改めて多くの人たちに知っていただきたい。

 日建連は旧3団体が一つになり、以前と比べ対外的な発言力は増したと思われるが、それでも他の産業に比べると建設業の持つ社会的意義について周知が不足している。注目を集める機会が少ない建設業が多方面で貢献する姿は、産業としての魅力につながるはず。日建連はもちろん、業界全体で発信力を高めていく必要がある。

多くの会員会社が前例のない除染事業に取り組んだ
(日建連提供)

 ◇復旧・復興事業の円滑化に貢献◇

 東日本大震災の発生は、旧日本建設業団体連合会、旧日本土木工業協会、旧建築業協会の3団体が統合し、11年4月に日建連が発足する直前だった。合併に先立ち、3団体は「新日建連緊急災害対策本部」を3月14日に設置。会員各社は応急対応や救援物資・資機材の調達、運搬、受け渡しに奔走した。

 震災から1カ月後の4月、日建連は「東日本大震災に係る被災地域の復興に関する提言」を発表した。6月には夏場の電力不足への対応に業界として協力するため「日建連電力対策自主行動計画(実施計画)」を策定。12年2月には「復旧・復興対策特別委員会」と「電力対策特別委員会」を設置し、被災地の本格的な復興に向け組織を拡充した。

 会員各社は災害廃棄物処理や除染、中間貯蔵施設、復興道路・復興支援道路の整備、新たな街づくりといった事業に参画。両特別委で会員企業が抱える課題を吸い上げ、関係機関に必要な対応を求めるなど、円滑な事業推進を後押しした。震災から10年を経て当初の目的を果たしたことから、両特別委の活動は一部を除いて20年度末で終了する。

 東日本大震災に関わる一連の活動が認められ日建連は15年4月、政府から災害対策基本法に基づく「指定公共機関」に建設業団体として初めて指定された。全国9支部と発注機関との災害復旧に関する包括協定の締結も進展。東日本大震災以降も全国各地で災害が相次ぐ中、災害対策委員会を中心に防災業務計画や対応マニュアル、建設BCP(事業継続計画)ガイドラインをまとめ、会員各社の災害対応力の向上に継続的に取り組んでいる。

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