戦後の第1次ベビーブームで生まれた「団塊の世代」が後期高齢者となり、介護ニーズの急増などが懸念される「2025年問題」が目前に迫っている。全国転勤や長時間労働といった働き方の特徴を持つ建設業では、介護と仕事との両立に不安を抱える人は少なくない。深刻化する人手不足などを背景に企業側も介護離職のリスクを懸念。社員が介護をしながら働ける体制整備が急務といえる。
将来家族に介護が必要になったときに仕事と両立できるか、漠然とした不安を抱えている人は多い。日本建設産業職員労働組合協議会(日建協、鈴木誠一議長)が加盟組合を対象に実施した「生活実態・意識調査」(18年度)によると、自身が家族を介護する際に介護休業を「取得できる・取得した(経験がある)」と回答した人の割合は10・9%にとどまり、33・9%が「取得できない」、55・2%が「分からない」と回答した=グラフ参照。
回答者を職種別で見ると、特に施工管理などといった外勤の社員の不安が大きいことが分かる。「取得できない」の割合は外勤建築43・7%、外勤土木44・8%と、いずれも全体の平均を上回った。
「取得できない」と回答した人の自由回答をみると、「とても理解を得られるような部署ではない」(40代男性)と上司や職場の理解度の低さを指摘する声や、「転勤が多く、要介護者を連れての移動は困難」(50代男性)など、建設業の働き方を問題視する意見が寄せられた。「介護休業を取得できずに退職した同僚がいたため、自身も取得できないと考える」(40代男性)との意見もあった。
日建協の加盟組合の企業のうち、多くが介護休業に関する制度を導入している。しかし、「(制度があっても)実際に運用されているかどうかは別問題」(中野裕副議長兼政策企画局長)というのが実態のようだ。
人手不足に悩む建設業では、人事担当者も社員の介護離職に危機感を募らせる。あるゼネコンの人事担当者は「介護はある日突然必要になるケースもある。問題に直面してから情報を集めていては遅い」と指摘する。できるだけ早い段階で両立するための制度を知ってもらおうと、建設業各社はセミナーなどを通じて情報発信に力を入れている。
大成建設が10年から開催している社員向けの介護セミナーは、昨年時点で累計参加者が2000人を突破した。セミナーでは家族に介護が必要になった場合に使える制度、手続きなどについて解説している。本社や支店などのセミナー会場に行く時間が取れない現場の社員も参加できるよう、現場事務所でも開催している点が特長だ。新型コロナウイルスの感染拡大を受けて昨年からオンラインでも開催し、参加者数は以前よりも増加しているという。
「介護離職を防止するには、職場の上司とケアマネジャーがキーマンになる」と指摘するのは管理本部の塩入徹弥人事部部長。介護と仕事の両立にはケアマネジャーの支援、そして職場の上司の理解が不可欠と考える。同社は昨年、両者と社員のコミュニケーションを円滑にするツールとして「仕事と介護の両立相談シート」を導入した。
シートは社員の現在の働き方や、介護への関わり方の希望などについて詳細に記入する欄がある。「何をしてほしいか」「何に困っているか」をケアマネジャーに的確に伝えることで、ケアプランの作成に役立ててもらうことが狙いだ。上司と人事担当者にもシートを活用して社員の状況を情報共有してもらい、介護との両立を支える体制構築につなげていく考えだ。
日本国土開発は多様な働き方の実現に向け 全国でダイバーシティーのセミナーを開催している |
日本国土開発はダイバーシティー(多様性)を実現する一環で介護と仕事の両立支援を強化している。19年には介護相談窓口を設置し、民間の介護サービスを行う会社に業務委託した。
委託先の選定に当たっては「ケアマネジャーと利用者のマッチングサービスがあること」「介護保険の申請調整・手配の代行をしていること」の二つが決め手となった。ダイバーシティーの陣頭指揮を執る笹尾佳子常務執行役員は、介護事業会社の経営に携わっていた経歴を持つ。前職での経験から「働きながらサービスを利用することを想定して委託先を選定した」(笹尾常務執行役員)という。
同社で介護を理由とする退職は年に1人程度。理由について笹尾常務執行役員は「テレワークの導入など、働き方の多様性を高めてきたことが奏功しているのでは」と分析する。
一方で「統計は取っていないが、家族が介護を必要とすることになっても、社員が両立しているのではなく、介護を含むケア労働の大半を配偶者が引き受けている可能性が高いと感じる」とも推測する。20~30代の社員には共働き世帯が増加している。そのため「若い世代の家族が介護を必要とする頃、長時間労働が恒常化している現在の建設業の働き方では、介護との両立は厳しくなる可能性がある」と建設業に長く定着した働き方に警鐘を鳴らす。
同社が目指すダイバーシティーでは、介護に携わる社員だけでなく子育て中の社員や、自身が病気などを抱える社員など、フルタイムで働くことが難しい社員も活躍する。笹尾常務執行役員は「かつて『モーレツ社員』と呼ばれたフルタイムで働く社員以外も活躍できるようにしていきたい」と力を込める。
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