2021年3月1日月曜日

【東日本大震災から10年】3・11を伝えるー元国土交通大臣・大畠章宏氏

  ◇現場で即断即決し迅速対応◇

 東日本大震災の発災当日、国土交通省で4回の緊急災害対策本部会議を開き、何はともあれ情報収集とその共有を図った。各所で情報を抱え込まず、さまざまな立場の人たちがそれぞれの見方で意見を出し合うことの大切さは、原発関連のエンジニアだった若い頃に学んだ。

 今できることを各自がより深く考えるため、現地の状況をみんなで共有する。全職員が視聴できるテレビ会議は有効だった。頻繁に会議を開き、情報共有のための資料づくりなどで負荷を掛けてしまったが、刻々と変わる現地の生情報で被災状況をはっきりと認識できたからこそ、6万人を超える全職員が力を合わせて集中し、ものごとを真剣に考え行動できた。

 被害は広域にわたり、東京から現地にはすぐさま入れない。頭に浮かんだのは人命救助のタイムリミットとされる72時間。予算や許認可の手続きなどは関係なく、現地で全て即決即行してもらうため、東北地方整備局を中心に全権を現地に委ねた。一人でも多くの人命を救うためなら、後からどのような責任を問われてもよしとする腹を固めた。

 救援の道を開くための「くしの歯作戦」など、現場主導でさまざまな対応が展開された。個人的に親しい韓国の国会議員や在日中国大使館の幹部に要請し、ガソリンや灯油の緊急輸入も実現した。鉄路での燃料の緊急輸送にも多くの関係者が尽力した。

 災害対策の最中に知人からさまざまな提言があり、医療関係者の乗った車や燃料を運ぶタンクローリーを緊急車両として通行可能にした。観光客が来ない温泉旅館やホテルを避難所に活用するなど、一般の方々の気付きや意見も積極的に取り入れた。被災地には余分な手間を取らせてはいけないと考え、1カ月余りたってから現地視察に入った。

 インフラ関係では、迅速な避難に向け津波で多くの人命を失ったことから、海面変動の監視システムの強化が進んだ。災害対策時に必要な電力確保のための送電網の連携強化や道の駅の救援拠点化なども震災の教訓によるものだ。

 非常時にどのように国民の命や財産を守るのか。10年の節目で復興計画の総点検とともに、改めて国のかたちや組織の在り方も考えるべきだろう。日本の危機対応力は、まだまだ十分とはいえない。米連邦緊急事態管理局(FEMA)のような常設の専門組織が必要ではないか。非常時には現地に権限・機能を集約させ、迅速に対応可能な仕組みも求められる。

 先月13日の福島沖地震による常磐道の土砂災害でも、地元の建設業者が素早く対応された。震災だけでなく、水害や雪害などでも真っ先に重機を持ち込み、啓開や復旧に当たる地域の建設業者の即応力を保持することが重要だ。市場原理のみにとらわれず、災害対応の基盤確保のために各地で必要な公共事業を安定的に発注することも必要だろう。地域の建設業の方々にはふるさとを守る誇りを持ち、今後とも頑張っていただきたい。

 (おおはた・あきひろ)1974年武蔵工業大学(現東京都市大学)大学院工学研究科修士課程修了、日立製作所入社。衆院議員(9期)、経済産業大臣、国土交通大臣などを歴任。茨城県出身、73歳。

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