2021年3月1日月曜日

【中堅世代】それぞれの建設業・279

魅力のある業界にしなければ担い手は確保できない

 ◇「やってみなはれ」精神で◇ 

 東北地方の中堅ゼネコンに勤務する則内崇さん(仮名)。入社8年目の昨年、公共発注機関の土木工事に現場代理人として初めて従事した。工事はダム貯水池ののり面対策の一環として発注された。大規模なのり面崩落の発生に伴い通行止めとなっている林道を、工事用道路として活用するために崩落箇所を整備する工事だ。現地は急峻(きゅうしゅん)で起伏に富む地形。のり肩部は風化岩がオーバーハング状態で残存するなど、非常に危険な環境だった。

 工期は3~11月の9カ月。例年11月に降雪がある豪雪地域で、後に続く工事を考えると工程の遅延は絶対に許されない。資機材の搬入路がない厳しい環境下で、安全でよりスピーディーな施工方法が求められた。過去の文献を当たり、同社はこれまで使ったことのない高所のり面掘削機によるのり面の掘削方法を提案することにした。

 ICT(情報通信技術)も積極的に取り入れた。道路線形を含む構造物全体について発注者に変更を提案するため、ドローン(小型無人機)による3D測量を実施し詳細な点群地形データを取得。発注者との協議で提示しながら設計変更の必要性を訴えた。

 熱意が伝わり、自分が描いた施工方法での実施が決まった。工程の大幅な短縮に加え、工事費削減を達成した。危険の伴う現場で無事故・無災害で竣工を迎えられたことが何よりうれしく、大きな自信につながった。

 背中を押してくれたのが同じ現場で監理技術者を務める先輩だった。先輩の口癖は「やってみなはれ」。サントリー創業者の鳥井信治郎がことあるごとに口にした言葉だ。関西出身でもないのに、絶妙なイントネーションでそう言われると気が楽になった。多くの口出しはしないが、陰ながらいつも支えてくれた。「無言の中にもいろいろと教わった」と振り返る。

 現場で忙しい日々を送る傍ら、リクルーターも務める。ここ数年、同社の採用活動は苦戦が続いていたが、コロナ禍で迎えた昨年の採用活動では例年を上回る応募があった。就職を機に県外へ出る学生が多い中、今まで以上に地元志向が強いという印象を受けた。

 新型コロナの影響が各産業に及ぶ中、建設業は事業の継続が求められ、感染防止対策を徹底しながら現場を稼働させてきた。地方では公共事業への依存度が高く、建設業が経済を下支えする役割を担う。「コロナの影響が少ない安定した業種だと受け入れられたのではないか」と分析する。

 コロナ下で業務の効率化やデジタル化が一段と重要となる。「新しい試みに挑戦した今回のような経験を伝承し、ICT導入による生産性向上をアピールしていきたい。それが若い人の魅力に映るはずだ」と力を込める。

 会社は若くしていろいろなことを任せてくれ、そこが気に入っている。就職を考えている学生たちには自身の経験からこの部分を強調している。監理技術者の先輩を思い浮かべながら、「信頼できる仲間がいる」とも伝えている。

 大学の同期には大手ゼネコンに入った友人も少なくない。年収には差があっても建設現場に大小はない。あるのはものづくりだ。「やってみなはれ」のチャレンジ精神で今日も現場と向き合う。

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