2021年3月9日火曜日

【中堅世代】それぞれの建設業・280

新規事業を世に送り出すには仲間の説得がまずは大事だ

 ◇心に刺さる説得力を求めて◇

  大手電機メーカーのグループ会社で働く渕上浩介さん(仮名)は、新規事業開拓の部署でチームリーダーを務めている。空調やヒートポンプをベースに多種多様な企業と連携。毎日違う分野や領域でプロジェクトの提案、実験をマネジメントしている。事業提案を進める中で必要になるのは説得力。経営陣や連携先を納得させるには「先を見据えた具体的な提案が一番心に刺さる」。自社の技術を活用した新たな事業を創出しどれだけ社会貢献できるか挑戦の日々だ。

 今の会社に入社したのは5年前。もともと高校卒業後に親会社へ入り、金型の設計をしていた。たまたま空調機の部品構造を最適化する研究を任され、今の会社と手を組むことになった。ただ空調機関連の研究は経験が無い未知の領域。空調機の部品構造や仕組みを勉強し研究の進め方を提案すると、グループ会社の技師長から「うちの会社に入らないか」と誘いを受けた。最初は戸惑ったが、力を認めてくれた言葉が心に響き入社を決めた。

 入社後の配属で新規事業のプロジェクトをまとめる立場に就いた。ただ事業内容をプレゼンすると「本当にうまくいくのか」と否定的な意見が多く驚いた。連携先の企業からは「君の熱意は分かったけど会社や周りはついてきているのか」と疑問の声も。「理屈が通るだけなら誰だって分かる。実現するためにどんなインフラや投資が必要か最初に話してくれ」と突き返されたこともあった。

 確かに提案内容をチームで共有した時、メンバーの反応にギャップを感じていた。技術者上がりのメンバーは自社の製品や技術を使うことに意識が向き、「なぜこの技術が必要か」をほとんど理解していなかった。仕事は一人ではできない。仲間の納得も必要だと痛感した。

 新規事業に対する問題意識も経営陣や連携先企業で差がある。「技術を使える分野はたくさんあり、課題解決につながるのにもったいない」。周囲の煮え切らない態度にもどかしさを感じる自分がいた。

 納得してもらえる提案の仕方や却下された時に何が悪かったのかを考えるようになった。多くのプレゼンを経験すると時間軸と実現可能性が大事と気付いた。1年単位でどこまで進むか。スケジュールを具体的に示すことで説得力が増した。メンバーには技術や製品を使う目的や解決できる課題を分かりやすく伝えた。事業の先にある顧客への貢献度を教え、説得した。

 たくさんの失敗を経験したが、提案した一つがようやく実験段階にまでこぎ着けた。まだまだ緒に就いたばかり。課題抽出やデータ収集に奮闘する毎日だが、「初めてだらけのことでわくわくしている」。新規事業が形になる日を楽しみにしている。

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