2022年5月6日金曜日

建築へ/emCAMPUS(愛知県豊橋市)、先行街区がオープン

 愛知県豊橋市の「豊橋駅前大通二丁目地区市街地再開発組合」(石黒功理事長)が整備を進めている「emCAMPUS(エムキャンパス)」。昨年11月に先行街区がグランドオープンし、商業店舗や図書館などには多くの市民が集っている。特徴的なのは再開発ビルと広場、そして街とが一体に溶け合い結び付くように設けた「まちなか広場」。どのような思いを込めたのか--。設計・監理を担当するK計画事務所(東京都世田谷区)の北山孝二郎代表に同行して現地を取材した。
 計画地は駅前大通2の81ほかの約1・5ヘクタール。東海道新幹線をはじめとするJR東海各線や名古屋鉄道などが発着する豊橋駅に近接する。既存施設の老朽化などを背景に街づくりの機運が高まり、2016年に再開発組合が発足。先行する東棟「EAST(イースト)」(RC一部S造地下1階地上24階建て塔屋2階延べ3万3429平方メートル)が昨年に竣工した。
 エネルギーや街づくりなどを展開するサーラグループ(豊橋市、神野吾郎グループ代表兼最高経営責任者〈CEO〉)の中部ガス不動産(同、赤間真吾社長)が参加組合員として参画。設計・監理は「北山孝二郎+K計画事務所」とアール・アイ・エーが、施工は特定業務代行者である鹿島が担当している。
 掲げたコンセプトは「みんなが主役となり つながりを生み出す まちの拠点をつくる」。食と健康、学びを楽しめる「笑む」(えむ)にあふれた一生涯のキャンパスにしようと「エムキャンパス」と命名した。東棟は地上1階に同市など東三河地域の食の発信拠点となる店舗やレストランなど、2~3階に市の「まちなか図書館」や国際交流協会、4~5階にオフィスや共創拠点など、6~24階に住宅を配置。低層棟の屋上には農園を設けた。
 街区中央には楕円(だえん)形の広場「まちなか広場」が設けられた。北山氏は「街と公園、再開発ビルを一体にしたいと考えた。接する距離ができるだけ長くなるように円形の広場を提案した」と説明する。途中段階には南北に細長い広場を設ける案や、南側に広場を集約化する案なども浮上していた。だが、より多くの交流やにぎわいを生み出す機能を高めるため、東棟と西棟の間に大きな路地状の広場を配置する案が採用された。
 北側に隣接する大通りや、西側と南側の道路とも通路が結ばれており、街区の外からも広場が見える。周りを通行する人たちが、広場のにぎわいを感じて引きつけられるような仕掛けとなっている。2階レベルに広場を取り囲むようにデッキを設け、図書館の入り口とつなぐなど空間を立体的に生かす工夫も凝らした。
 東棟の広場側には張り出すようにベランダを設け、広場を見下ろせるようにした。まっすぐな壁面ではなく、あえてせり出す部分を作ることで、広場のイベントをベランダから見たり、逆に広場からベランダにいる人たちに目を向けたりする動きが生まれる。「建物と広場を立体的につなげて、街との関わりを作る」(北山氏)狙いだ。ベランダの下側の階からすれば、屋根付きのテラスとして利用できるメリットもある。
 「建物が大型化してもヒューマンスケールを維持する」(北山氏)ことも重視した。そのための工夫が、外壁にちりばめたスリットの入った有孔鋼板だ。「ブリーズ・ソレイユ(日よけ)として西日を遮るとともに、ダブルスキンで建物に変化を持たせて優しい空間にした」(北山氏)。空調設備を据え付ける部分にも有孔鋼板を設置し、どの角度からも同様なイメージを持てるようにした。低層部には壁面緑化を積極的に導入。周辺の街並みに溶け込むようにした。
 一連の工夫が実を結んだ背景には、まちなかのにぎわい創出に強い意欲を持った市や再開発組合ら関係者の「情熱」(北山氏)があったという。市には分野横断的に中心市街地活性化に取り組む部署「まちなか活性課」があり、「セクショナリズムに陥ることなく、全体を良くするために調整してもらえた」と北山氏は振り返る。
 サーラグループの神野代表兼CEOは「人と人がきちんとつながって街を思い、そして暮らしていく」という姿を思い描く。現地では既存建物の解体工事が進む。24年には西棟「WEST(ウエスト)」(RC造地下1階地上16階建て塔屋2階延べ1万3840平方メートル)が完成し、全体ができあがる予定だ。笑顔で満ちあふれた街の実現へ--。再開発事業は仕上げの時期に入っていく。



source https://www.decn.co.jp/?p=142304

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