2023年1月27日金曜日

建築へ/俳優・田中道子さんに聞く/1級建築士合格で夢へ前進

 大手芸能事務所のオスカープロモーション(東京都港区、石川薫社長)に所属する俳優の田中道子さんが、2022年度の1級建築士試験に合格した。撮影や舞台稽古など仕事の合間に地道に勉強を積み重ね、初挑戦で合格を勝ち取った。今は俳優を続けながら実務経験を取得する道を模索中。建築士との二刀流で活躍する目標を見据え、「まだまだ通過点」と気を引き締める。多様性が求められる時代の中、新たなロールモデルに挑戦していく。
 --受験までの経緯を。
 「ゲームソフト『ファイナルファンタジー』の街のデザインに憧れて大学で空間造形学科に入った。そうしたら現実の空間を学ぶ建築だった。最初は落ちこぼれだったが、ゼミに入り、ランドスケープの先生に『建築と教育は結び付いていて、感受性や発想力を育てていける』と聞いた。父が教師で子どもの成長に携わりたいと思っていて、建築の仕事に魅力を感じた。学校を卒業し2級建築士を取った」
 「まだ1級は先だと思っていた直後に、今の事務所に声を掛けていただいた。アクション俳優に憧れていた。建築の仕事は何歳でもできるが、芸能の仕事は今しかできない。後悔したくないと飛び込んだ。1年くらいたって建築の実務を積ませてほしいと直談判したものの『何のために東京に来たのか』と言われ、いったんは諦めたが、建築士への夢は捨てられなかった。その後、実務経験がなくても挑戦できるように(制度が)緩和されたと聞いた。コロナ禍で自宅待機した時に勉強しようと考え、一念発起した」

 --受験対策は。
 「21年10月に始めた。2級建築士の時から勝手が分かっている総合資格学院(岸和子学院長)に通った。1級建築士の合格には1000時間の勉強が推奨されていた。実務を積んでいないため、それだけでは足りないと1200時間を目安にした。学科試験までの期間は約1年で、逆算すると月100時間、週25時間となる。仕事上、明日の予定が前日にならないと決まらず、1日拘束されることも多い。とにかく前倒ししながら取り組んだ。休日は12時間勉強した」
 「学校では、今まで言われたことがないくらい厳しく指導された。『吹き抜けの下の階にトイレを配置しては駄目』など指摘されたことはすべてノートに書いた。課題は最下位くらい下手で指摘も多かったが、逆に先生から言われたことは全部守ろうと考えた。試験には、ちょうどよい緊張で臨めた。奇跡的にいつもよりうまくいった」

 --今後の展望を。
 「免許登録には実務経験が必要になる。継続的でなくても良いため、ドラマが入っていない時などスケジュールを見ながら挑戦したい。どこまで可能か分からないが、公共事業や大規模建築に関わりたい。近未来的なスマートシティーにもロマンをくすぐられる。生半可な気持ちでできるとは思っていないが、芸能の仕事で得たものも生かしながら、建築で新しいことがしたい。出産して復帰できていない友人がいる。託児所があって働きやすい女性設計士軍団を作れたらという思いもある」
 「コロナ禍で、副業や二足三足のわらじが受け入れられる時代になってきた。芸能一筋も格好良いが、二刀流や三刀流で活躍する人がいても良いのではないか。自立したオールマイティーな女性が小さい頃からの理想像だった。フレキシビリティーのある生き方をして、『私もやってみよう』と思ってもらえるような存在になりたい」
 「ドラマでは視聴者や監督に面白いと思ってもらえるように表現している。内容は違うが、建築でクライアントの要望に応えることともつながっていると思う。東日本大震災が起きて衣食住の仕事の尊さや貴重さを感じ、生活に密接に関わる部分に即座に対応できるプロになりたいと思った。試験には合格したが卵から生まれていないくらいで、まだまだ通過点だ。合格の報道を見た60代男性から、『諦めていたが建築士に挑戦したい』とお手紙をいただいた。それだけでも意味があると思った。だからこそ、もっともっと頑張りたい」。
 (たなか・みちこ)2013年静岡文化芸術大学デザイン学部空間造形学科卒。同年、2級建築士に合格。ミス・ワールド2013日本代表、世界大会ベスト30。ドラマ「ドクターX~外科医・大門未知子~」や大河ドラマ「西郷どん」、映画、舞台、バラエティー番組などで活躍中。静岡県出身、33歳。

舞台稽古で時間がない中で取り組んだ課題には指摘事項が多く記されている。「練習不足と言われて泣いて帰った」と今は笑顔で話す

source https://www.decn.co.jp/

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