エンジニアの人材派遣・教育事業を展開するトライアロー(東京都港区、保坂幸治代表取締役)のショベルカー操作訓練アプリ「重機でGo」。ダウンロード(DL)数が15万件を超え利用者が増える中、同社は有料版を廃止し、無料版に絞り込む方針を固めた。質を高めて6月ころにリニューアル版を提供する予定だ。eスポーツのように競技性を加味することで、イベントで盛り上がりを見せている。建設業に広く関心を持ってもらう新たな入り口としても期待が集まる。
本物のショベルカーの操作感を体験できる重機シミュレーターとして開発し、2019年にリリースした。旋回やアームの開閉スピードを設定でき、メーカーごとの操作方法の違いも反映している。スマートフォン版とVR(仮想現実)版を用意。駆け出しのオペレーターや実技試験の受験者、重機の運転に興味がある一般市民らが利用している。
開発のきっかけは、トンネル工事やメンテナンス工事などを手掛ける寿建設(福島市)の森崎英五朗社長のアイデアだった。森崎社長は「重機の操作を練習したいが、なかなか練習できないという悩みを聞いた。休み時間にスマホでゲームをしている若い人を見て、スマホで練習できると良いと考えた」と振り返る。オペレーター不足への懸念など建設業界の課題を知ったトライアローは、多くの人に重機に興味を持ってもらおうと開発を進めた。
単なるスマホアプリと侮ってはいけない。同社ソリューション開発グループの藤井歩リーダーは、建設業の経験はまったくなかったが、アプリで練習し、入社2カ月で小型車両系建設機械(3トン未満)の免許を取得した。昨秋のイベントでは実際に重機を運転し、注目を浴びたという。
レバーのパターンは▽JIS▽コマツ▽三菱▽神鋼-という四つを用意している。当初は2パターンだったが、「『次の現場で別パターンを使うので練習したい』というユーザーの問い合わせがありアップデートした」(藤井リーダー)。実は油圧ショベルの操作方法はメーカーによって異なっている。それを知らないで操作すると「思っていない方向に旋回して事故の原因になる」(同)。
頭では分かっていても、体は普段通りに動かしてしまうのが人間のさが。「ヒューマンエラーにつながる恐れがある」(森崎社長)からこそ、アプリで事前に訓練して感覚をつかんでおくことは、災害防止の面でも大きな意味を持つ。
幅広く関心を持ってもらう上で遊び心も欠かせない。同アプリは一般的な工事現場とともに、リゾートのようなデザインも用意している。国土交通省が22年11月に茨城県つくば市の建設DX実験フィールドで開いた「遠隔施工等実演会」(施工DXチャレンジ2022)にも出展。「同じ事をやっては太刀打ちできない」(藤井リーダー)との認識から、月面を想定したステージを制作して重力が6分の1の状態を再現した。
月面への運搬を踏まえると、極力軽量化することが求められると考え、「軽量化を意識したオリジナル重機も作成した」(藤井リーダー)。リアリティーを追求する姿勢も奏功し、国交省や建設会社に加えて宇宙航空研究開発機構(JAXA)などからも関心を集めた。
オリジナルアプリやカスタマイズ版の制作などを受託するケースが増えており、ビジネスにつながっている。これまでは2種類の基本操作訓練が可能な無料版と、7種類の操作訓練や事故事例を体験できる有料版を用意していたが、3日に有料版の販売を終了した。
今後は有料版に限定していたコンテンツも、無料版で広く公開していく。藤井リーダーは「現場の意見もいただきながら、すべてを無料にして内容を充実させる。より現場で活用してもらえるようにしたい」と話す。
学校での体験授業など活用の幅が広がっている。イベント向けに制限時間内で土砂詰め込み量を競うようなバージョンを用意したところ、参加者が大きく盛り上がったことから、eスポーツとの親和性もありそうだ。競技大会などが実現すれば、建設業とは縁がなかったユーザーも加わり、さらに幅が広がる可能性がある。
建設DXが進む中、建機の遠隔操作は現実のものに近づきつつある。「重機でGo」で腕を磨いた猛者が遠隔操作により現場で活躍する--。そんな未来につながるかもしれない。
藤井歩リーダー
月面バージョンを展示した遠隔施工等実演会(トライアロー提供)
source https://www.decn.co.jp/
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