2018年5月14日月曜日

【中堅世代】それぞれの建設業・199

緑のカーテンやすだれなど身近なことから伝えていきたい
 ◇「造ること」「伝えること」続けていく◇

 「大学で建築環境学を学ぶまでは、暑い時や寒い時の最初の行動はエアコンのスイッチを入れることでした」。自然エネルギーを有効に取り入れて建物の温熱環境を整える「パッシブデザイン」の建築づくりに奮闘している早野恵美さん(仮名)も、以前は機械設備を自ら進んで動かしていた。行動や思考が大きく変わったきっかけは、大学時代の恩師との出会いだった。

 建築家にあこがれ、設計課題も一生懸命に取り組んだが、建物を設計する上でよりどころとなる判断基準や、建築に対する価値観を見いだせずにいた。迷いの日々の中、建築環境学の講義を担当していた教授から、太陽の熱や光、空気の流れなど自然エネルギーを生かす建築や環境のデザインがあることを学んだ。

 「環境工学的な視点から設計がやりたい」。そんな気持ちが強まり、その教授の研究室を志望。実験や数値解析に基づく卒業論文がメインの研究室だったが、「先生にお願いして卒業設計に取り組ませてもらった」。

 卒業後、組織設計事務所に就職し設備設計部に配属された。少数精鋭の部署で、集合住宅から大規模施設までさまざまな建物の設備設計に携わることができたが、「空調設備や照明機器など機械ですべてを解決してしまう設計の在り方に疑問を感じる毎日だった」と吐露。自然の力を生かしたデザインをしたいとの思いが募るとともに、そのためにも身に付けなければいけないことが明確になった。

 入社5年後、修士課程の大学院生として恩師の研究室に戻った。卒業研究は設計というアプローチで取り組んだが、理論的な視点で環境や建築をデザインすることを学び直したかった。「先生は常に『君はどうしたいのか』『なぜそう思うのか』と問う。自身で考えたどり着いた答えについては理解者、応援者となり指導していただける」ことも一歩を踏み出す勇気となった。

 大学院生として自身の研究に取り組むとともに、研究室の先輩、実務の経験者として学部生の相談や指導にも当たった。「日光や風など自然の動きを敏感に捉え、省エネルギーで快適なシェルターを作る。そんな視点を養ってもらいたかった」と振り返り、「伝える」ことの大切さを実感した。

 大学院修了後、社会人として再出発を機に建築士事務所を立ち上げた。自然を生かした心地良い空間や暮らしを提案するのが真骨頂。「設計者として建物を造ることは続けていくが、さらに力を入れたいのは、建物を使う人に環境デザインの意図や自然の力を生かした暮らし方を伝えること」と目を輝かせる。

 「暑ければ薄着になる。窓を開けて室内に風を取り入れたり、すだれや緑のカーテンで日射を遮蔽(しゃへい)したりする。それでも暑い時はエアコンを使えばいい。ただスイッチを押す前に一つでも二つでも行動や工夫をしてもらいたい」

 こうしたことを伝えていくのも専門家の仕事。「人間や建築が自然の動きとどう付き合っていくかを考え、行動し続けていきたい」と話す。

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