上洛殿の内部。鮮やかな彫刻欄間が豪華さを引き立てる |
◇施工は安藤ハザマ・松井建設・八神建築JV◇
名古屋城本丸御殿は、徳川家康の九男で尾張藩主・義直の住居として1615年に完成し、その後3代将軍・家光の上洛に合わせ、上洛殿などが増築(1634年)された。復元事業はこの時期の本丸御殿をベースに行われた。施設規模は木造平屋こけらぶき(一部本瓦ぶき)で、広さ約3100平方メートル、部屋数は30を越える。
復元工事は2009年に着手。1~3期に分けて実施され、1期分の「玄関」や藩主が来客と会った「表書院」「中之口部屋」などは13年5月に、2期分の「下御膳所」や藩主が内臣と対面した「対面所」などは16年6月に既に公開済み。残る3期分の「黒木書院」や「湯殿書院」、将軍の上洛時の居室となった「上洛殿」がこのほど完成した。
◇豪華絢爛な「将軍のお宿」◇
将軍の居室。飾金具や蒔絵などがふんだんに使われている |
施工を担当した安藤ハザマJVの吉原一彦所長は「古写真・図面などから原寸図をつくり、彫刻する板はひのき無節心去り赤身材で年輪幅が細かなものを選び、それをはぎ合わせて使用した。1体は裏表があるため、全部で14面の彫刻となる。富山の井波彫刻協同組合の組合員の方にお願いした」。彫刻は当初、試作や打ち合わせなどが繰り返し行われたため、1体の制作に1年以上かかったが、「何体も制作するうちに、半年程度で制作できるようになった」(吉原所長)。
彫刻を終えた後は彩色に移る。彩色は彩色設計(京都府日向市)が担当し、木地整備、下塗り、箔(はく)下塗り、捨皮(膠〈にかわ〉液塗り)、箔押し、仕上げ中色、岩掛け(仕上げ顔料塗り)、線描きなどの10の工程を約6カ月かけて1体ずつ制作した。
上洛殿では長押をはじめ、各所に精緻な細工が施された飾金具が取り付けられている。よく見ると、柄が浮き上がり、繊細な彫金により仕上げられていることが分かる。吉原所長は「飾金具は当時の技法も採用された。下地は鎖鍍金(ちょうときん)、水銀鍍金、漆箔押し、電気メッキなどで行われ、仕上げは煮黒味、墨差しが使われた」。引き手や帳台構の飾金具には、泥七宝が使われ、当時のぜいを尽くしたものになっている。
◇伝統の技法で当時の姿再現◇
建具も手の込んだものが多い。建物外周には板戸、腰下障子、連子窓、さや欄間、花欄間が、内部には絵ぶすま、戸ぶすま、腰高障子、水腰障子、舞良戸、杉戸などが取り付けてある。蒔絵(まきえ)が施された建具もあり、上洛殿の絵舞・絵ぶすまには七宝つなぎと唐草文様、杉戸・障子には唐草の文様、天袋には七宝つなぎの文様、上段之間天井格縁には七宝つなぎの文様がある。建具は建具塗り2~2・5カ月、蒔絵で1~1・5カ月の計3~4カ月、天井格縁が漆塗りで3カ月、蒔絵で10カ月の計13カ月を要して手作業で仕上げられた。吉原所長は「建具の蒔絵は模様がどれも少しずつ異なっており、下絵は650枚にも達した」という。
建物内部の壁・天井・ふすまには、名古屋市より支給された障壁画の復元模写が張られている。障壁画は狩野派の絵師たちが描いたもので、本丸御殿の焼失直前に疎開され、いまも大半は現存し、国の重要文化財に指定されている。復元には当時の鮮やかな色に再現するため、素材や技法を研究・分析し、ミクロ単位の緻密な作業によって再現されている。
湯殿書院。下からの蒸気で体を温めるサウナ方式のお風呂 |
10年の歳月をかけて、約400年前の御殿を忠実に復元した名古屋城本丸御殿。職人たちの匠の技が取り入れられた城郭御殿建築をはじめ、その内部の彫刻欄間、飾金具、蒔絵、障壁画など、見どころ満載で、名古屋の新たな名所になることは間違いない。
□一見の価値あり/安藤ハザマJV・吉原一彦所長□
1期から工事を進めてきて、3期の部分は最も豪華で手を掛けた部分となる。特に上洛殿は柱一つとっても、素材にこだわり、数年もかけて木材を調達した。厳選された木を見るだけでも楽しく、さらに職人さんたちが時間と手間を掛けて制作した彫刻欄間や飾金具、蒔絵などは一見の価値がある。ぜひいろいろな方に足を運んで見てもらいたい。
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